楽訓 / 巻之中・節序
一もろこしの人は、一とせの內、ことに春をめでて、ふみにも春を賞せし詞多し。我が國の人は、昔より秋に心をそめける。此爭、いにしへ我が國の人、ふみにも多くあらはせり。春秋のことわり、陰陽ことなれど、其景色は何れもすぐれてめでたければ、此あらそひは、いみじき賢哲といふとも、わかちがたかるべし。況や人の心同じからざること、其面の如くなれば、其本性の好みによつて、春秋のおとりまさりありぬべし。我輩の心は、時につけつゝ移り行けば、いづれをまされりと定めがたし。花紅葉の散れるも、いづれまさりて惜しと云ひがたし。
新字:一もろこしの人は、一とせの内、ことに春をめでて、ふみにも春を賞せし詞多し。我が国の人は、昔より秋に心をそめける。此争、いにしへ我が国の人、ふみにも多くあらはせり。春秋のことわり、陰陽ことなれど、其景色は何れもすぐれてめでたければ、此あらそひは、いみじき賢哲といふとも、わかちがたかるべし。況や人の心同じからざること、其面の如くなれば、其本性の好みによつて、春秋のおとりまさりありぬべし。我輩の心は、時につけつゝ移り行けば、いづれをまされりと定めがたし。花紅葉の散れるも、いづれまさりて惜しと云ひがたし。
書き下し
一もろこしの人は、一とせの内、ことに春をめでて、ふみにも春を賞せし詞多し。我が国の人は、昔より秋に心をそめける。此争、いにしへ我が国の人、ふみにも多くあらはせり。春秋のことわり、陰陽ことなれど、其景色は何れもすぐれてめでたければ、此あらそひは、いみじき賢哲といふとも、わかちがたかるべし。況や人の心同じからざること、其面の如くなれば、其本性の好みによつて、春秋のおとりまさりありぬべし。我輩の心は、時につけつつ移り行けば、いづれをまされりと定めがたし。花紅葉の散れるも、いづれまさりて惜しと云ひがたし。
現代語訳
中国の人は、一年のうち特に春をめでて、書物にも春を賞した言葉が多いのです。わが国の人は、昔から秋に心を寄せてきました。この論争は、昔わが国の人が書物にも多く書き表しています。春と秋の道理は陰陽で異なりますが、その景色はどちらも優れてすばらしいので、この争いは、たとえすぐれた賢人でも判定しがたいでしょう。まして人の心が同じでないことは、その顔が違うようなものなので、その人の生まれつきの好みによって、春秋の優劣があるのは当然です。私の心は時節につれて移っていくので、どちらがまさっていると定めがたいのです。花と紅葉の散るのも、どちらがより惜しいとは言いがたいのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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