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楽訓 / 巻之中・節序

一陳眉公が、世の人は皆秋の月をめでて、秋の日の妙なるを知らずといへり。此事世の人も心づきなかりしに、まづ我が心の同じく然る事を得て、げにもとぞ聞ゆめる。心をつけて、秋の日の光草木にかゞやき、いさぎよく妙なる事を知るべし。未くだる程より、其景色いやましなり。殊に夕陽の西にかたぶき、山に入り海にしづまんとするこそ、世に又類なく、えもいはぬ眺なれ。日と月は、大空にふたつ懸竝べたる光なれば、萬物にすぐれたるはむべなるかな。

新字:一陳眉公が、世の人は皆秋の月をめでて、秋の日の妙なるを知らずといへり。此事世の人も心づきなかりしに、まづ我が心の同じく然る事を得て、げにもとぞ聞ゆめる。心をつけて、秋の日の光草木にかゞやき、いさぎよく妙なる事を知るべし。未くだる程より、其景色いやましなり。殊に夕陽の西にかたぶき、山に入り海にしづまんとするこそ、世に又類なく、えもいはぬ眺なれ。日と月は、大空にふたつ懸並べたる光なれば、万物にすぐれたるはむべなるかな。

書き下し

一陳眉公が、世の人は皆秋の月をめでて、秋の日の妙なるを知らずといへり。此事世の人も心づきなかりしに、まづ我が心の同じく然る事を得て、げにもとぞ聞ゆめる。心をつけて、秋の日の光草木にかがやき、いさぎよく妙なる事を知るべし。未くだる程より、其景色いやましなり。殊に夕陽の西にかたぶき、山に入り海にしづまんとするこそ、世に又類なく、えもいはぬ眺なれ。日と月は、大空にふたつ懸並べたる光なれば、万物にすぐれたるはむべなるかな。

現代語訳

陳眉公(陳継儒)は「世の人はみな秋の月をめでて、秋の日の妙なることを知らない」と言いました。このことは世の人も気づかなかったのに、まず私の心も同じく同感であることを得て、まことにそうだと思われます。心をつけて、秋の日の光が草木に輝き、すがすがしく妙なることを知るべきです。未の刻(午後二時ごろ)を過ぎる頃から、その景色はいよいよまさります。とりわけ夕日が西に傾き、山に入り海に沈もうとするのこそ、世にまた類のない、何とも言えない眺めです。日と月は大空に二つ並べてかけた光なので、万物にすぐれているのは当然です。

解説

明の文人陳継儒(号は眉公)の言葉を引き、秋は月ばかりがもてはやされるが、昼の日の光も美しいと説く段です。益軒は自分も同じように感じていたと喜び、草木に輝く午後の光、とりわけ山や海に沈む夕日を、比べるもののない眺めと讃えます。日と月は天に並ぶ二つの光だという言い方には、陰陽の対を重んじる儒学の見方が表れています。世間が注目するものだけでなく、見落とされがちな美しさに気づく目を持つこと、それが楽しみを広げる秘訣です。夕日を眺める数分は、今日すぐにでも実践できます。

この章句が説くこと

楽しみ秋夕日自然心

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