楽訓 / 巻之中・節序
一秋來ぬれば、はつ風涼しくうち吹きて、草木のそよぎ、秋の聲の、いづこにも打なびきて聞ゆるこそ、はつ春の風にかはり、心をいたましめ、身にしみて、金氣の至れるしるべとおぼゆれ。きりぎりすの、きざはしのもとにすだくも、折知り顏に聞えさす。阮籍が懷を詠ぜし詩に、開秋兆涼氣、蟋蟀鳴床帷と云ひしも、此比の景氣をいへるなり。大暑やうやく退き、新涼すでに來りぬれば、あたかも酷吏の去りて、故人のここに來れる心地ぞすなる。この比は、人の形氣力を得て、燈も親しくなりぬれば、古き書どもまきのぶるに、時を得て、萬の樂にまさり、こよなう面白し。荻のうは風萩の下つゆ、さまざまの蟲の音、皆秋のあはれを催して、身にしむ事かぎりなし。
新字:一秋来ぬれば、はつ風涼しくうち吹きて、草木のそよぎ、秋の声の、いづこにも打なびきて聞ゆるこそ、はつ春の風にかはり、心をいたましめ、身にしみて、金気の至れるしるべとおぼゆれ。きりぎりすの、きざはしのもとにすだくも、折知り顔に聞えさす。阮籍が懐を詠ぜし詩に、開秋兆涼気、蟋蟀鳴床帷と云ひしも、此比の景気をいへるなり。大暑やうやく退き、新涼すでに来りぬれば、あたかも酷吏の去りて、故人のここに来れる心地ぞすなる。この比は、人の形気力を得て、灯も親しくなりぬれば、古き書どもまきのぶるに、時を得て、万の楽にまさり、こよなう面白し。荻のうは風萩の下つゆ、さまざまの虫の音、皆秋のあはれを催して、身にしむ事かぎりなし。
書き下し
一秋来ぬれば、はつ風涼しくうち吹きて、草木のそよぎ、秋の声の、いづこにも打なびきて聞ゆるこそ、はつ春の風にかはり、心をいたましめ、身にしみて、金気の至れるしるべとおぼゆれ。きりぎりすの、きざはしのもとにすだくも、折知り顔に聞えさす。阮籍が懐を詠ぜし詩に、開秋涼気を兆し、蟋蟀床帷に鳴くと云ひしも、此比の景気をいへるなり。大暑やうやく退き、新涼すでに来りぬれば、あたかも酷吏の去りて、故人のここに来れる心地ぞすなる。この比は、人の形気力を得て、灯も親しくなりぬれば、古き書どもまきのぶるに、時を得て、万の楽にまさり、こよなう面白し。荻のうは風萩の下つゆ、さまざまの虫の音、皆秋のあはれを催して、身にしむ事かぎりなし。
現代語訳
秋が来ると、初風が涼しく吹いて、草木がそよぎ、秋の声がどこにもなびいて聞こえるのこそ、初春の風とは変わって、心を痛ませ、身にしみて、金気(秋の気)が至ったしるしと感じられます。こおろぎが階段のもとに集まって鳴くのも、時節を知った顔に聞こえます。阮籍が思いを詠んだ詩に「開秋涼気を兆し、蟋蟀床帷に鳴く」と言ったのも、この頃の景色を言ったものです。大暑がようやく退き、新涼がすでに来ると、まるで酷吏が去って、旧友がここに来た心地がします。この頃は、人の体も気力を取り戻し、灯火にも親しむようになるので、古い書物を広げて読むのに時を得て、どんな楽しみにもまさり、この上なく面白いものです。荻の上を渡る風、萩の下露、さまざまな虫の音は、みな秋のあわれを催して、身にしみることは限りがありません。
解説
この章句が説くこと
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