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楽訓 / 巻之上・総論

一世の中に、同じく人とむまれて、飢ゑこゞゆる人亦多し。其不幸あはれむべし。我が身餘財あらば、かゝる貧人に施しすくひて、自ら樂み、人を樂ましむべし。人間世の樂は、みづから善を樂み、人をすくひて善をするに越えたる樂はなし。おごりて益なき事に財を多くつひやすは、浮氣のなすわざ、甚をしむべし。よく思ひて、樂にはあらざることを知るべし。富める人のおごりて、一日一事につひやせる財を用ひなば、千萬人の飢を助くるにも猶餘あるべし。然れば百人のうゑをすくふは、財おほく費さずしても、すくひ易くて、其益大なり。是を以て、大富人ならざれども、仁心だにあらば、眼前に人のうゑこゞえぬるを助くる程の惠は、行ひやすかるべし。

新字:一世の中に、同じく人とむまれて、飢ゑこゞゆる人亦多し。其不幸あはれむべし。我が身余財あらば、かゝる貧人に施しすくひて、自ら楽み、人を楽ましむべし。人間世の楽は、みづから善を楽み、人をすくひて善をするに越えたる楽はなし。おごりて益なき事に財を多くつひやすは、浮気のなすわざ、甚をしむべし。よく思ひて、楽にはあらざることを知るべし。富める人のおごりて、一日一事につひやせる財を用ひなば、千万人の飢を助くるにも猶余あるべし。然れば百人のうゑをすくふは、財おほく費さずしても、すくひ易くて、其益大なり。是を以て、大富人ならざれども、仁心だにあらば、眼前に人のうゑこゞえぬるを助くる程の恵は、行ひやすかるべし。

書き下し

一世の中に、同じく人とむまれて、飢ゑこごゆる人亦多し。其不幸あはれむべし。我が身余財あらば、かかる貧人に施しすくひて、自ら楽み、人を楽ましむべし。人間世の楽は、みづから善を楽み、人をすくひて善をするに越えたる楽はなし。おごりて益なき事に財を多くつひやすは、浮気のなすわざ、甚をしむべし。よく思ひて、楽にはあらざることを知るべし。富める人のおごりて、一日一事につひやせる財を用ひなば、千万人の飢を助くるにも猶余あるべし。然れば百人のうゑをすくふは、財おほく費さずしても、すくひ易くて、其益大なり。是を以て、大富人ならざれども、仁心だにあらば、眼前に人のうゑこごえぬるを助くる程の恵は、行ひやすかるべし。

現代語訳

世の中には、同じく人と生まれながら、飢えこごえている人もまた多くいます。その不幸は哀れむべきです。自分に余った財があるなら、そのような貧しい人に施し救って、自ら楽しみ、人をも楽しませるべきです。人の世の楽しみは、自ら善を楽しみ、人を救って善をすることにまさる楽しみはありません。おごって益のないことに財を多く費やすのは、浮ついた気のすることで、はなはだ惜しむべきことです。よく考えて、それが楽しみではないことを知るべきです。富んだ人がおごって一日一つのことに費やす財を用いれば、千万人の飢えを助けてもなお余りがあるでしょう。ですから百人の飢えを救うのは、財を多く費やさなくても救いやすく、その益は大きいのです。こういうわけで、大富豪でなくても、仁の心さえあれば、目の前で人が飢えこごえているのを助ける程度の恵みは、行いやすいでしょう。

解説

益軒は、人を救って善を行うことにまさる楽しみはないと言い切ります。富んだ人が一日のぜいたくに使うお金で多くの人が救えるという指摘は、今の社会にもそのまま当てはまります。大金持ちでなくても、仁の心があれば目の前の困っている人を助けることはできます。寄付やボランティア、困っている知人への手助けなど、身近な善行は相手だけでなく自分の心も満たします。浪費の楽しみとの違いは、後に残るものの温かさにあるでしょう。

この章句が説くこと

仁施し善楽しみ財

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