楽訓 / 巻之上・総論
外物の養を以て內の樂を助くるは、外にある飮食衣服の養を以て、内なる元氣を助くるが如し。又心の內に此樂あれば、飮食などの外のやしなひも、皆樂の助となる。しかのみならず、朝ゆふべ目の前にみちたる天地の大なるしわざ、月日の明けき光、四時のめぐり行く序にしたがへる、折々の景氣のうるはしき有樣、雲煙のたなびける朝夕の變態、山のたゝずまひ、川のながれ、風のそよぎ、雨露のうるほひ、雪のきよき、花のよそほひ、芳草のさかえ、嘉木のしげれる、鳥獸蟲魚のしわざまで、すべて萬物の生意の止まざる、是をもてあそべば、きはまりなき樂なり。是に對すれば、其心を開き、其情を淸くし、道心を感じ興し、鄙吝を洗ひ盡すべし。是を天機に觸發すと云ふ。觸發とは、外物にふれて善心をおこすをいへり。是外物の養をかりて、内の樂を助くるなり。
新字:外物の養を以て内の楽を助くるは、外にある飲食衣服の養を以て、内なる元気を助くるが如し。又心の内に此楽あれば、飲食などの外のやしなひも、皆楽の助となる。しかのみならず、朝ゆふべ目の前にみちたる天地の大なるしわざ、月日の明けき光、四時のめぐり行く序にしたがへる、折々の景気のうるはしき有様、雲煙のたなびける朝夕の変態、山のたゝずまひ、川のながれ、風のそよぎ、雨露のうるほひ、雪のきよき、花のよそほひ、芳草のさかえ、嘉木のしげれる、鳥獣虫魚のしわざまで、すべて万物の生意の止まざる、是をもてあそべば、きはまりなき楽なり。是に対すれば、其心を開き、其情を清くし、道心を感じ興し、鄙吝を洗ひ尽すべし。是を天機に触発すと云ふ。触発とは、外物にふれて善心をおこすをいへり。是外物の養をかりて、内の楽を助くるなり。
書き下し
外物の養を以て内の楽を助くるは、外にある飲食衣服の養を以て、内なる元気を助くるが如し。又心の内に此楽あれば、飲食などの外のやしなひも、皆楽の助となる。しかのみならず、朝ゆふべ目の前にみちたる天地の大なるしわざ、月日の明けき光、四時のめぐり行く序にしたがへる、折々の景気のうるはしき有様、雲煙のたなびける朝夕の変態、山のたたずまひ、川のながれ、風のそよぎ、雨露のうるほひ、雪のきよき、花のよそほひ、芳草のさかえ、嘉木のしげれる、鳥獣虫魚のしわざまで、すべて万物の生意の止まざる、是をもてあそべば、きはまりなき楽なり。是に対すれば、其心を開き、其情を清くし、道心を感じ興し、鄙吝を洗ひ尽すべし。是を天機に触発すと云ふ。触発とは、外物にふれて善心をおこすをいへり。是外物の養をかりて、内の楽を助くるなり。
現代語訳
外物の養いによって内の楽しみを助けるのは、外にある飲食や衣服の養いによって内なる元気を助けるようなものです。また心の中にこの楽しみがあれば、飲食などの外からの養いも、みな楽しみの助けとなります。それだけではありません。朝夕目の前に満ちている天地の大きな働き、月や日の明るい光、四季がめぐり行く順序に従った折々の景色の美しいありさま、雲や霞がたなびく朝夕の移り変わり、山のたたずまい、川の流れ、風のそよぎ、雨露のうるおい、雪の清らかさ、花の装い、香り高い草の栄え、よい木の茂り、鳥獣や虫魚の営みに至るまで、すべて万物の生命の働きが止まないのを味わえば、限りない楽しみとなります。これに向き合えば、心を開き、情を清らかにし、道を求める心を感じ起こし、卑しいけちな心を洗い尽くすことができます。これを「天機に触発する」と言います。触発とは、外物に触れて善い心を起こすことを言います。これは外物の養いを借りて内の楽しみを助けることです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心を大にし虛にし平にし潛め定む其の心を大にして天下の物を容れ、其の心を虛にして天下の善を受け、其の心を平にして天下の事を論じ、其の心を潛めて天下の理を觀、其の心を定めて天下の變に應ず。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一示して云く、人は思ひ切て命をも棄て、身肉手足をも截ことは中々せくるゝなり、然あれば世間の事を思ふに、名利執心の為にも多くかくの如く思ひ切るなり、只依り来る時に、事に触れ物に随て、心品を調ふること難きなり、学者身命を捨ると思ふて、且くおしゝづめて、云ふべきことをも、修すべきことをも、道理に順ずるか順せざるかと案じて、道理に順せば云ひ、若くは行じもすべきなり、
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
-
『呻吟語』外篇・人情・心は二三を怕れ、情は一を怕る心は二三を怕れ、情は一を怕る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る