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折たく柴の記 / 『折たく柴の記』関の子との問答、小門の覚悟

かくてその明けの日の暮がたに、かの關が子のうち一人來りて、きのふ人給はりしはそこも來りたすけむと思ひしにこそといふ。さこもおもひつれと答へしかば、當時勘氣を蒙りて、家にこもり居る人、屋形の門をば、いかにしてかは出で來むと思ひしといふ。西の小門より出で去らむと思ひきと答ふ。彼の門は巽の程てそあれ。日暮れぬれば鎖しぬ、いかにしてか出づべきといふ。外の門々は皆その守りかたければ、出づる事を得べからず。西の小門は、年老いたる夫婦のものゝ、門脇の小屋に住して守るなれば、その錀は其の小屋にあるなり。我ゆきむかひてかう〳〵の事にて我はゆきて死ぬるなり。さればこゝより出でたりしといふ事を、いふべきものゝあらねば、汝が罪かうふるべきにあらずといはゞ、さりとも出さぬ事はあらじ。もしもかなふまじといはむには、ちからなき夫婦のものゝくびきり、錀匙ひとり、門おしあけて出でむとこそ思ひたれと答ふ(戸部の屋形は、むかし里見の義堯入道の住みし、久留里の城下なる郭にありしなり。その城のあとは高き山なり)そこの親父と、我等が父だちの、年比したしかりければ、たすけ來らむとおもひしこゝろざしのほどは、謝するにことばなし。さりながら勘氣かうぶり、家にこもり居し人の、私に家出でむ事も然るべからず。まして其の守りのものをころして、門を破り出でむこと、其の罪重疊たらずやといふ。

新字:かくてその明けの日の暮がたに、かの関が子のうち一人来りて、きのふ人給はりしはそこも来りたすけむと思ひしにこそといふ。さこもおもひつれと答へしかば、当時勘気を蒙りて、家にこもり居る人、屋形の門をば、いかにしてかは出で来むと思ひしといふ。西の小門より出で去らむと思ひきと答ふ。彼の門は巽の程てそあれ。日暮れぬれば鎖しぬ、いかにしてか出づべきといふ。外の門々は皆その守りかたければ、出づる事を得べからず。西の小門は、年老いたる夫婦のものゝ、門脇の小屋に住して守るなれば、その錀は其の小屋にあるなり。我ゆきむかひてかう〳〵の事にて我はゆきて死ぬるなり。さればこゝより出でたりしといふ事を、いふべきものゝあらねば、汝が罪かうふるべきにあらずといはゞ、さりとも出さぬ事はあらじ。もしもかなふまじといはむには、ちからなき夫婦のものゝくびきり、錀匙ひとり、門おしあけて出でむとこそ思ひたれと答ふ(戸部の屋形は、むかし里見の義堯入道の住みし、久留里の城下なる郭にありしなり。その城のあとは高き山なり)そこの親父と、我等が父だちの、年比したしかりければ、たすけ来らむとおもひしこゝろざしのほどは、謝するにことばなし。さりながら勘気かうぶり、家にこもり居し人の、私に家出でむ事も然るべからず。まして其の守りのものをころして、門を破り出でむこと、其の罪重畳たらずやといふ。

書き下し

かくてその明けの日の暮がたに、かの關が子のうち一人來りて、きのふ人給はりしはそこも來りたすけむと思ひしにこそといふ。さこもおもひつれと答へしかば、當時勘氣を蒙りて、家にこもり居る人、屋形の門をば、いかにしてかは出で來むと思ひしといふ。西の小門より出で去らむと思ひきと答ふ。彼の門は巽の程てそあれ。日暮れぬれば鎖しぬ、いかにしてか出づべきといふ。外の門々は皆その守りかたければ、出づる事を得べからず。西の小門は、年老いたる夫婦のものゝ、門脇の小屋に住して守るなれば、その錀は其の小屋にあるなり。我ゆきむかひてかう〳〵の事にて我はゆきて死ぬるなり。さればこゝより出でたりしといふ事を、いふべきものゝあらねば、汝が罪かうふるべきにあらずといはゞ、さりとも出さぬ事はあらじ。もしもかなふまじといはむには、ちからなき夫婦のものゝくびきり、錀匙ひとり、門おしあけて出でむとこそ思ひたれと答ふ(戸部の屋形は、むかし里見の義堯入道の住みし、久留里の城下なる郭にありしなり。その城のあとは高き山なり)そこの親父と、我等が父だちの、年比したしかりければ、たすけ來らむとおもひしこゝろざしのほどは、謝するにことばなし。さりながら勘氣かうぶり、家にこもり居し人の、私に家出でむ事も然るべからず。まして其の守りのものをころして、門を破り出でむこと、其の罪重疊たらずやといふ。

現代語訳

こうしてその翌日の暮れ方に、あの関の子のうちの一人が来て、「昨日ご心配くださったのは、そこへも駆けつけて助けようと思ったからだ」と言う。「そう思っていた」と答えると、「今、勘気をこうむって家にこもっている人が、屋形の門をどうやって出て来ようと思ったのか」と言う。「西の小門から出て行こうと思った」と答える。「あの門は巽の方角にある。日が暮れれば閉ざす。どうして出られるのか」と言う。「外の門々はみな守りが固いので、出ることはできない。西の小門は、年老いた夫婦の者が、門脇の小屋に住んで守っているので、その鍵はその小屋にある。私が行って、これこれの事情で私は行って死ぬのだ、だからここから出たと言う者がいないので、お前が罪を受けるはずはない、と言えば、そうは言っても出さないことはあるまい。もし聞き入れられないと言うなら、力のない夫婦の者の首を切り、鍵を取って、門を押し開けて出ようと思っていた」と答える。(戸部の屋形は、昔里見義堯入道が住んだ、久留里の城下にある郭にあった。その城の跡は高い山である。)

解説

関の子との問答で、白石が助けに行く手立てまで考えていたことがわかります。外門は守りが固いので、年老いた夫婦が守る西の小門を、事情を話して通らせ、聞き入れられなければ鍵を取って出るつもりだったと語ります。ここには白石の気概と同時に、守る者の命を顧みない危うさも表れています。次の章句で、その考えの動機が自分の恥を避けるためだったと明かされます。語られた覚悟を、そのまま称えるのではなく、その危うさも含めて受け取りたい場面です。
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この章句が説くこと

関の子西の小門屋形夫婦の守り久留里覚悟

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