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おもひで草 / 神國文武・教えは国の風土に合わせて設けるもの

河といへば均しく河なれども、其國其地によりて其形勢異也、船といへば均しく船なれども、其河の形勢に合せて便りよき樣に作出たれば、其製造各異也、此理を能くもおもひさとらで、此所なる船を假りもてきて、ゆ□ゝりなく彼所の河に用むとするは中ゝに河流の形勢を知らぬ强事也、文武も均しく文武なれども、皇國と外國と其國躰風習各異也、すべて敎てふものは其國其所の風土人情を見合て、設出たるものなれば、もぱら和漢の差異あるべき理なるを、そをよくもおもひさとらで、輙く彼の國の文武を取りて我皇國に用んとす、强事なりといはんに誰かはよく爭はむ、かの東照神祖命の御制條に學神國文武之道可奉守護御國家者也と仰掟給ひしは、實にいひしらぬ御識見也、

新字:河といへば均しく河なれども、其国其地によりて其形勢異也、船といへば均しく船なれども、其河の形勢に合せて便りよき様に作出たれば、其製造各異也、此理を能くもおもひさとらで、此所なる船を仮りもてきて、ゆ□ゝりなく彼所の河に用むとするは中ゝに河流の形勢を知らぬ強事也、文武も均しく文武なれども、皇国と外国と其国体風習各異也、すべて教てふものは其国其所の風土人情を見合て、設出たるものなれば、もぱら和漢の差異あるべき理なるを、そをよくもおもひさとらで、輙く彼の国の文武を取りて我皇国に用んとす、強事なりといはんに誰かはよく争はむ、かの東照神祖命の御制条に学神国文武之道可奉守護御国家者也と仰掟給ひしは、実にいひしらぬ御識見也、

書き下し

河といへば均しく河なれども、其國其地によりて其形勢異也、船といへば均しく船なれども、其河の形勢に合せて便りよき樣に作出たれば、其製造各異也、此理を能くもおもひさとらで、此所なる船を假りもてきて、ゆ□ゝりなく彼所の河に用むとするは中ゝに河流の形勢を知らぬ强事也、文武も均しく文武なれども、皇國と外國と其國躰風習各異也、すべて敎てふものは其國其所の風土人情を見合て、設出たるものなれば、もぱら和漢の差異あるべき理なるを、そをよくもおもひさとらで、輙く彼の國の文武を取りて我皇國に用んとす、强事なりといはんに誰かはよく爭はむ、かの東照神祖命の御制條に學神國文武之道可奉守護御國家者也と仰掟給ひしは、實にいひしらぬ御識見也、

現代語訳

川といえば同じ川ですが、その国その土地によって形や流れは異なります。船といえば同じ船ですが、その川の形や流れに合わせて使いやすいように作られたものですから、その造りはそれぞれ異なります。この理をよく考えずに、こちらの船を借りてきて、(底本で判読できない字)ゆとりもなくあちらの川で使おうとするのは、川の流れの形勢を知らない無理なことです。文武も同じく文武ですが、皇国と外国とでは国のあり方や習慣がそれぞれ異なります。総じて教えというものは、その国その土地の風土や人情を見合わせて設けたものですから、和と漢で違いがあるのが当然の理なのに、それをよく考えずに、たやすくあの国の文武を取って皇国に用いようとするのは、無理なことだと言えば、誰がうまく言い争えるでしょうか。あの東照神祖(徳川家康)の御制条に「神国の文武の道を学び、御国家を守護し奉るべきものである」とおっしゃり定められたのは、まことに言いようもない見識です。

解説

川と船のたとえで、制度や教えは土地の事情に合わせて作るものだと述べています。他国の文武をそのまま持ち込む無理を指摘する、歴史的な文脈の主張です。現代の職場でも、成功した他社の仕組みや海外の人事制度を、そのまま自社に当てはめて失敗する例があります。管理職は、制度の名前や評判ではなく、自社の文化、人の気質、業務の流れという川の形に合っているかを見極める必要があります。導入する際は、必ず自社の実情に合わせて調整してから使いましょう。

この章句が説くこと

おもひで草伴林光平神国文武風土船と川制度設計

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