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おもひで草 / 讀書規則・外国の書は事に備えて読むもの

漢籍を讀むは漢國の事を知ん爲にものするわざにて、其國の道を身に信行はんとにはあらず、佛典を讀むも亦同じ心搆なるべきを、既く漢籍を讀て漢意になり、佛典を讀て天竺情になれる人世にいとおほし、かのあらぬ西洋の書籍を讀て其を身に行ひ心に領めて、もばら戎夷になれる人の世に多きが如し、凡て外國の書籍を讀むは、預て彼が國風を知り其國人の情態を辨へおきて、事有むときの設に具へおかんとてなるを、既く忘れ果たる人の多きぞかし、將身に信行ふべき道心に領おくべき理などは、おのが生れ出たる國の書籍にて事足れゝば、何の餘暇ありて遠き外國々の書籍は讀むべき、何の餘暇有りて其道を學ぶべき、當昔東照神祖命の書せ給ひし神秘百箇條てふものに「受身於神國者。儒釋仙道等。以外國之敎。先之專之。則暫閣我主人。而勵他人之主如し。是失本の理にあらずや。於此間者。用捨勘辨詳なるべし」と誡給へり、

新字:漢籍を読むは漢国の事を知ん為にものするわざにて、其国の道を身に信行はんとにはあらず、仏典を読むも亦同じ心搆なるべきを、既く漢籍を読て漢意になり、仏典を読て天竺情になれる人世にいとおほし、かのあらぬ西洋の書籍を読て其を身に行ひ心に領めて、もばら戎夷になれる人の世に多きが如し、凡て外国の書籍を読むは、預て彼が国風を知り其国人の情態を弁へおきて、事有むときの設に具へおかんとてなるを、既く忘れ果たる人の多きぞかし、将身に信行ふべき道心に領おくべき理などは、おのが生れ出たる国の書籍にて事足れゝば、何の余暇ありて遠き外国々の書籍は読むべき、何の余暇有りて其道を学ぶべき、当昔東照神祖命の書せ給ひし神秘百箇条てふものに「受身於神国者。儒釈仙道等。以外国之教。先之専之。則暫閣我主人。而励他人之主如し。是失本の理にあらずや。於此間者。用捨勘弁詳なるべし」と誡給へり、

書き下し

漢籍を讀むは漢國の事を知ん爲にものするわざにて、其國の道を身に信行はんとにはあらず、佛典を讀むも亦同じ心搆なるべきを、既く漢籍を讀て漢意になり、佛典を讀て天竺情になれる人世にいとおほし、かのあらぬ西洋の書籍を讀て其を身に行ひ心に領めて、もばら戎夷になれる人の世に多きが如し、凡て外國の書籍を讀むは、預て彼が國風を知り其國人の情態を辨へおきて、事有むときの設に具へおかんとてなるを、既く忘れ果たる人の多きぞかし、將身に信行ふべき道心に領おくべき理などは、おのが生れ出たる國の書籍にて事足れゝば、何の餘暇ありて遠き外國々の書籍は讀むべき、何の餘暇有りて其道を學ぶべき、當昔東照神祖命の書せ給ひし神秘百箇條てふものに「受身於神國者。儒釋仙道等。以外國之敎。先之專之。則暫閣我主人。而勵他人之主如し。是失本の理にあらずや。於此間者。用捨勘辨詳なるべし」と誡給へり、

現代語訳

漢籍を読むのは、中国のことを知るためにするのであって、その国の道を自分の身に信じて行うためではありません。仏典を読むのも同じ心構えであるべきなのに、すでに漢籍を読んで漢の心になり、仏典を読んで天竺の心になった人が世にとても多くいます。それは、見当違いの西洋の書物を読んで、それを身に行い心に収め、もっぱら異国人のようになった人が世に多いのと同じです。総じて外国の書物を読むのは、あらかじめその国の風俗を知り、その国の人の様子をわきまえておいて、事が起こったときの備えとするためですが、それをすっかり忘れてしまった人が多いのです。そもそも身に信じて行うべき道や心に収めておくべき理は、自分の生まれた国の書物で事足りているのに、何の暇があって遠い外国の書物を読み、その道を学ぶのでしょうか。昔、東照神祖(徳川家康)が書かれた神秘百箇条というものに、「神国に生まれた者が、儒教・仏教・仙道などの外国の教えを先にし、それを専らにすれば、しばらく自分の主人をさしおいて他人の主人に励むようなものである。これは根本を失う理ではないか。この国においては、取捨の判断を詳しくせよ」と戒めておられます。

解説

外国の書は、相手を知り、事に備えるために読むものだという主張です。底本の時代の国学者の立場であり、他の学問を一律に退ける趣旨ではなく、歴史的な文脈として読む必要があります。現代の職場に置き換えると、他社事例や海外の手法を学ぶのは、自社の課題を解くための参考にするためであって、そのまま移植するためではありません。管理職は、取り入れる前に自社の理念や現場の実情を確かめ、何を採り何を捨てるかを自分の言葉で説明できることが求められます。

この章句が説くこと

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