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翁問答 / 改訂翁問答丁亥春

間に志眞實なる方あれ共、よき先覺に親炙なきによつて道のわが心にある事を辨へず、徒に先王の法賢人君子の迹を認て道とし、世間の好格套を善とさだめ、世間の理屈を認て道理とし、是を以て心を正しくし、身を修むと伎倆をはげむによつて本來活潑融通の心却てすくみ、自己心裏に固有したる明德の寬裕溫柔くらく、圭角日々にかさみ、次第々々と和睦せずいなものになりぬ、かくあれば學問の益といふものはたゞ文藝ばかりなり、世間の人是を見て、物よみ出家醫者などの外は、無益のことなりといへる取沙汰そのいはれなきにあらず、

新字:間に志真実なる方あれ共、よき先覚に親炙なきによつて道のわが心にある事を弁へず、徒に先王の法賢人君子の迹を認て道とし、世間の好格套を善とさだめ、世間の理屈を認て道理とし、是を以て心を正しくし、身を修むと伎倆をはげむによつて本来活溌融通の心却てすくみ、自己心裏に固有したる明徳の寛裕温柔くらく、圭角日々にかさみ、次第々々と和睦せずいなものになりぬ、かくあれば学問の益といふものはたゞ文芸ばかりなり、世間の人是を見て、物よみ出家医者などの外は、無益のことなりといへる取沙汰そのいはれなきにあらず、

書き下し

間に志真実なる方あれ共、よき先覚に親炙なきによつて道のわが心にある事を弁へず、徒に先王の法賢人君子の迹を認て道とし、世間の好格套を善とさだめ、世間の理屈を認て道理とし、是を以て心を正しくし、身を修むと伎倆をはげむによつて本来活溌融通の心却てすくみ、自己心裏に固有したる明徳の寛裕温柔くらく、圭角日々にかさみ、次第々々と和睦せずいなものになりぬ、かくあれば学問の益といふものはたゞ文芸ばかりなり、世間の人是を見て、物よみ出家医者などの外は、無益のことなりといへる取沙汰そのいはれなきにあらず、

現代語訳

まれに志の真実な人がいても、よい先覚に親しく学ぶことがないために、道が自分の心にあることをわきまえず、いたずらに先王の法や賢人君子の行跡をそのまま道とし、世間のもっともらしい型を善と定め、世間の理屈を道理として、これによって心を正しくし身を修めようと腕を振るうので、本来活き活きと融通のきく心がかえってすくみ、自分の心のうちに本来備わる明徳の寛裕温柔さが暗くなり、角が日々に重なり、次第次第に人と和睦せず妙なふうになっていく。こうなっては学問の益というものはただ文芸だけである。世間の人がこれを見て、物読みや出家・医者などのほかは学問は無益だと取りざたするのも、理由のないことではない。

解説

動機が真実な人でも、よい師を得ないと別の落とし穴に落ちる。道は自分の心にあるのに、それを知らず、古の聖賢の行いや世間の型や理屈を外から当てはめて自分を矯正しようとする。すると本来しなやかな心がこわばり、角が立ち、人と和せなくなる。藤樹自身が若い頃、朱子学の礼法を形どおりに守ろうとして苦しんだ経験が背景にあると見られる。後に陽明学へ向かう藤樹の、外の規範より内なる心を重んじる姿勢が表れた一節である。ルールやベストプラクティスを機械的に当てはめるほど、人は硬くなる。型の奥にある心を学びたい。

この章句が説くこと

明徳心型先覚学問修養

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