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翁問答 / 改訂翁問答丙戌冬

盈は高滿甚しく己れを是として自用ひ、萬事分過を好み、人をかろしめあなどる心なり、謙は溫恭自虛にして自反し、獨を愼み人をうらみず人をあなどらず、人に取て善をなす德なり、盈は天地鬼神のそこなひ捨給ふ所にして、人も又是を惡み、謙は天地鬼神の保祐し給ふ所にして人も亦是をこのみぬる實理を明して、後學の盈をすて謙を求めん事を示し給ふ聖謨なり、此ゆへに溫恭自虛の四字を以て初學心法の第一義とす、此四字の法を用て滿心をのぞき捨ぬれば、そのまなぶところ悉く心のみがきとなりて、明德日日に明かになるものなり、若此法によらずして滿心をのぞかざれは、その學ぶところ皆滿心のかさみとなりて、明德日々に暗くなりぬ、

新字:盈は高満甚しく己れを是として自用ひ、万事分過を好み、人をかろしめあなどる心なり、謙は温恭自虚にして自反し、独を慎み人をうらみず人をあなどらず、人に取て善をなす徳なり、盈は天地鬼神のそこなひ捨給ふ所にして、人も又是を悪み、謙は天地鬼神の保祐し給ふ所にして人も亦是をこのみぬる実理を明して、後学の盈をすて謙を求めん事を示し給ふ聖謨なり、此ゆへに温恭自虚の四字を以て初学心法の第一義とす、此四字の法を用て満心をのぞき捨ぬれば、そのまなぶところ悉く心のみがきとなりて、明徳日日に明かになるものなり、若此法によらずして満心をのぞかざれは、その学ぶところ皆満心のかさみとなりて、明徳日々に暗くなりぬ、

書き下し

盈は高満甚しく己れを是として自用ひ、万事分過を好み、人をかろしめあなどる心なり、謙は温恭自虚にして自反し、独を慎み人をうらみず人をあなどらず、人に取て善をなす徳なり、盈は天地鬼神のそこなひ捨給ふ所にして、人も又是を悪み、謙は天地鬼神の保祐し給ふ所にして人も亦是をこのみぬる実理を明して、後学の盈をすて謙を求めん事を示し給ふ聖謨なり、此ゆへに温恭自虚の四字を以て初学心法の第一義とす、此四字の法を用て満心をのぞき捨ぬれば、そのまなぶところ悉く心のみがきとなりて、明徳日日に明かになるものなり、若此法によらずして満心をのぞかざれは、その学ぶところ皆満心のかさみとなりて、明徳日々に暗くなりぬ、

現代語訳

盈とは、高慢がはなはだしく、自分を正しいとして自分の考えばかりを用い、万事に分を過ぎることを好み、人を軽んじ侮る心である。謙とは、温和で恭しく自らを虚しくして自分を省み、独りを慎み、人を恨まず侮らず、人から取って善をなす徳である。盈は天地鬼神が損ない捨てるところであって、人もまたこれを憎み、謙は天地鬼神が保ち助けるところであって、人もまたこれを好む。この実理を明らかにして、後学が盈を捨て謙を求めることを示された聖人の教えである。それゆえ温恭自虚の四字をもって初学の心法の第一義とする。この四字の法を用いて満心を除き捨てれば、学ぶところはことごとく心の磨きとなって、明徳は日に日に明らかになる。もしこの法によらず満心を除かなければ、学ぶところはみな満心のかさみとなって、明徳は日に日に暗くなる。

解説

盈と謙を対比して定義し、初学者の心構えとして「温恭自虚」の四字を掲げる。温和で、恭しく、自分を空にしておくこと。同じ学びでも、この四字があれば心の磨きとなり、なければ慢心を厚くするだけだという指摘は鋭い。改訂翁問答で藤樹がとくに書き加えた戒めであり、晩年の藤樹が学ぶ者の心の向きをいかに重く見ていたかがうかがえる。研修や読書が成長につながる人とそうでない人の差は、知識の量より受け取る姿勢にある。学ぶ前に自分を空にする一呼吸を置きたい。

この章句が説くこと

謙温恭自虚満心明徳心法学問

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