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翁問答 / 下卷之末之末

獨を愼とは一念のすこしおこる時に良知を鏡とし、よく省察吟味して、名利の欲、習心、間思雜慮などの邪念おこるときは、我親の身をそこなひ破る不孝の罪人となりて、幽にしては六極莫重の鬼責をうけ、明にしては五刑莫大の肉刑を受べき魔心なりと恐れ愼、火急に克去て神明に相通ずる至德の獨樂をもとむる工夫を云なり、一念の惡心にておやの身をそこなひ破ると云子細は孝經曰身體髮膚受之父母不敢毀傷孝之始也、

新字:独を慎とは一念のすこしおこる時に良知を鏡とし、よく省察吟味して、名利の欲、習心、間思雑慮などの邪念おこるときは、我親の身をそこなひ破る不孝の罪人となりて、幽にしては六極莫重の鬼責をうけ、明にしては五刑莫大の肉刑を受べき魔心なりと恐れ慎、火急に克去て神明に相通ずる至徳の独楽をもとむる工夫を云なり、一念の悪心にておやの身をそこなひ破ると云子細は孝経曰身体髪膚受之父母不敢毀傷孝之始也、

書き下し

独を慎とは一念のすこしおこる時に良知を鏡とし、よく省察吟味して、名利の欲、習心、間思雑慮などの邪念おこるときは、我親の身をそこなひ破る不孝の罪人となりて、幽にしては六極莫重の鬼責をうけ、明にしては五刑莫大の肉刑を受べき魔心なりと恐れ慎、火急に克去て神明に相通ずる至徳の独楽をもとむる工夫を云なり、一念の悪心にておやの身をそこなひ破ると云子細は孝経曰身体髪膚は之を父母に受く、敢へて毀傷せざるは孝の始なり、

現代語訳

独りを慎むとは、一念がわずかに起こる時に良知を鏡として、よく省察し吟味して、名利の欲・習い染まった心・間思雑慮などの邪念が起こるときは、それは自分の親の身を損ない破る不孝の罪人となって、目に見えぬところでは六極の重い鬼の責めを受け、目に見えるところでは五刑の大きな肉刑を受けるべき魔心であると恐れ慎み、ただちに打ち克って取り去り、神明に相通じる至徳の独りの楽しみを求める工夫をいうのである。一念の悪心で親の身を損ない破るというわけは、孝経に「身体髪膚はこれを父母に受く、敢えて毀傷せざるは孝の始めなり」とあるからである。

解説

「慎独」の具体的な方法である。念が起こった瞬間に良知を鏡として点検し、名利の欲、習い性、雑念を見つけたらすぐに克ち去る。藤樹はその邪念の重さを、六極(書経洪範の六つの不幸)や五刑という強い言葉で示し、親の身を傷つける不孝に等しいと恐れさせる。根拠は孝経開宗明義章の「身体髪膚」の句である。ここで終わらせず、目指すのは「至徳の独楽」、誰に見られずとも心が神明に通じる楽しみだという点が肝要である。人目のないところでの小さな手抜きや不正を自分で止められるかが、信頼の土台になる。

この章句が説くこと

慎独良知省察邪念孝心

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