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翁問答 / 上卷之本

天地萬物皆神明靈光の中に生化する者なる故に、よりて我心の孝德明らかなれば、神明に通し四海に明らかなるものなり、故に我心の孝德を明らかにして、天地萬物に通ずるやうに心がけを以て、人間第一のつとめとす、しかるを以て、天地萬物皆我本心孝德の中に在る物なり、迷へる人は心のうちに計り有ると思へ共、根本は心の中に生し出たる身なり、然る故に悟りたる眼には、內外幽明有無の差別なし、五倫の道を外と見ていとひ棄て、內外幽明有無の二見を立つるは悟りに似たる迷なり、

新字:天地万物皆神明霊光の中に生化する者なる故に、よりて我心の孝徳明らかなれば、神明に通し四海に明らかなるものなり、故に我心の孝徳を明らかにして、天地万物に通ずるやうに心がけを以て、人間第一のつとめとす、しかるを以て、天地万物皆我本心孝徳の中に在る物なり、迷へる人は心のうちに計り有ると思へ共、根本は心の中に生し出たる身なり、然る故に悟りたる眼には、内外幽明有無の差別なし、五倫の道を外と見ていとひ棄て、内外幽明有無の二見を立つるは悟りに似たる迷なり、

書き下し

天地万物皆神明霊光の中に生化する者なる故に、よりて我心の孝徳明らかなれば、神明に通し四海に明らかなるものなり、故に我心の孝徳を明らかにして、天地万物に通ずるやうに心がけを以て、人間第一のつとめとす、しかるを以て、天地万物皆我本心孝徳の中に在る物なり、迷へる人は心のうちに計り有ると思へ共、根本は心の中に生し出たる身なり、然る故に悟りたる眼には、内外幽明有無の差別なし、五倫の道を外と見ていとひ棄て、内外幽明有無の二見を立つるは悟りに似たる迷なり、

現代語訳

天地万物はみな神明の霊光の中に生じ化するものであるから、我が心の孝徳が明らかであれば、神明に通じ四海に明らかなものである。それゆえ我が心の孝徳を明らかにして、天地万物に通じるように心がけることを人間第一の務めとする。そうであるから、天地万物はみな我が本心の孝徳の中にあるものである。迷っている人は心の内にだけあると思うが、根本は心の中から生じ出た身である。それゆえ悟った目には、内と外、幽と明、有と無の区別はない。五倫の道を外のものと見て嫌い捨て、内外・幽明・有無の二つの見方を立てるのは、悟りに似た迷いである。

解説

前段で五倫を外にあると思う人を批判した藤樹は、逆に心の内だけを尊んで五倫を捨てる立場も退ける。天地万物は本心の孝徳の中にあり、悟った目には内外の区別がないという。人間関係を俗事として離れ、心の内に悟りを求める仏教や隠者への批判がここに込められている。外の規範だけを守るのも、内の悟りだけを求めるのも片寄りであり、心の徳と人間関係の実践は一つだというのが藤樹の立場である。自己研鑽と人との関わりを切り離さず、関係の中でこそ自分を磨くという考え方は、働く人にも示唆が多い。

この章句が説くこと

孝心明徳五倫悟り内外

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