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翁問答 / 上卷之本

體充問曰人間の心立種々ありて行ふ處其品多し、其內に是非混亂して何れに從ふ可し共覺へず人間一生涯の内、何れの道をか受用の業と成すべく候や。師の曰我人の身のうちに、至德要道と云へる天下無双の靈寶あり、此寶を以て心に守り身に行ふを要とするなり、此寶を以て五倫の道を行へば、五倫の間皆和睦して怨なし、此寶を以て神明に事まつれば神明納受し給ふ、此寶を以て天下を治れば天下平になり、國を治れば國治り、家を齊へば家齊へり、身に行へば身治り、心に守れば心明かなり、おし廣れば、天地の外にわたり、取納れば我心の密に隱る、誠に神明至極の靈寶なり、

新字:体充問曰人間の心立種々ありて行ふ処其品多し、其内に是非混乱して何れに従ふ可し共覚へず人間一生涯の内、何れの道をか受用の業と成すべく候や。師の曰我人の身のうちに、至徳要道と云へる天下無双の霊宝あり、此宝を以て心に守り身に行ふを要とするなり、此宝を以て五倫の道を行へば、五倫の間皆和睦して怨なし、此宝を以て神明に事まつれば神明納受し給ふ、此宝を以て天下を治れば天下平になり、国を治れば国治り、家を斉へば家斉へり、身に行へば身治り、心に守れば心明かなり、おし広れば、天地の外にわたり、取納れば我心の密に隠る、誠に神明至極の霊宝なり、

書き下し

体充問曰人間の心立種々ありて行ふ処其品多し、其内に是非混乱して何れに従ふ可し共覚へず人間一生涯の内、何れの道をか受用の業と成すべく候や。師の曰我人の身のうちに、至徳要道と云へる天下無双の霊宝あり、此宝を以て心に守り身に行ふを要とするなり、此宝を以て五倫の道を行へば、五倫の間皆和睦して怨なし、此宝を以て神明に事まつれば神明納受し給ふ、此宝を以て天下を治れば天下平になり、国を治れば国治り、家を斉へば家斉へり、身に行へば身治り、心に守れば心明かなり、おし広れば、天地の外にわたり、取納れば我心の密に隠る、誠に神明至極の霊宝なり、

現代語訳

体充が問うた。人の心の持ち方はさまざまで、行うことの種類も多い。その中で是と非が入り乱れていて、どれに従えばよいのか分からない。人間一生のうちで、どの道を自分の実践の仕事とすべきでしょうか。師は答えた。われわれ人の身の内に、至徳要道という天下に二つとない霊宝がある。この宝を心に守り身に行うことを要とするのである。この宝によって五倫の道を行えば、五倫の間はみな和らぎ睦まじくなって怨みがない。この宝によって神明に仕えれば神明はこれを受け入れる。この宝によって天下を治めれば天下は平らかになり、国を治めれば国は治まり、家を斉えれば家は斉い、身に行えば身は修まり、心に守れば心は明らかである。押し広げれば天地の外にまで及び、取り納めれば我が心の奥深くに隠れる。まことに神妙この上ない霊宝である。

解説

本書冒頭の問答で、藤樹は人生の拠り所を「至徳要道」という霊宝と名づける。至徳要道は『孝経』開宗明義章の言葉で、後に孝であると明かされる。五倫・神明・天下国家・身・心のすべてに通じるものとして、まず宝の大きさを印象づける語り口である。外に答えを探す問いに対し、答えは自分の身の内にあると返す点に藤樹の思想の核がある。日本陽明学の祖と呼ばれる藤樹らしい、内なる徳への信頼がここに現れている。迷ったとき外の基準を集める前に、自分の内にある誠実さを軸にする姿勢は、判断に迷う職場でも頼りになる。

この章句が説くこと

孝至徳要道心五倫明徳霊宝

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