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翁問答 / 下卷之末之末

體充曰、さやうに眞實の儒道をおこなふ工夫には、いかやうに仕たるがよく候や。師の曰、その工夫には先自滿の浮氣名利の欲心をすて間思雜慮の妄をのぞき明德の心源をすまし、全孝の心法を受用するを根本第一とす、さて世間にましはる禮儀作法は、其國其處の風俗を本とし、何事も圭角なく目にたゝぬ樣に取なし、いかにも作法うやうやしく謙德を守り、かりそめにも人にまさらんと爭ふ魔心なく、孝悌忠信の道を根に入てつとめ行ひ、親には孝行を盡し君に仕へては忠節をはけまし、よりをや位高人年老たる人、德たかき人などをよく敬ひ、友達にたのもしく義理をたて、兄弟の間には友恭を行ひ、妻子には義慈をほどこすべし、かくのごとくにおこなふを儒道をおこなふと云なり、加樣におこなひてさはりある所は、世界のうちにはあるまじく候、よくよく體認してつとめおこなはるべき事なり。

新字:体充曰、さやうに真実の儒道をおこなふ工夫には、いかやうに仕たるがよく候や。師の曰、その工夫には先自満の浮気名利の欲心をすて間思雑慮の妄をのぞき明徳の心源をすまし、全孝の心法を受用するを根本第一とす、さて世間にましはる礼儀作法は、其国其処の風俗を本とし、何事も圭角なく目にたゝぬ様に取なし、いかにも作法うやうやしく謙徳を守り、かりそめにも人にまさらんと争ふ魔心なく、孝悌忠信の道を根に入てつとめ行ひ、親には孝行を尽し君に仕へては忠節をはけまし、よりをや位高人年老たる人、徳たかき人などをよく敬ひ、友達にたのもしく義理をたて、兄弟の間には友恭を行ひ、妻子には義慈をほどこすべし、かくのごとくにおこなふを儒道をおこなふと云なり、加様におこなひてさはりある所は、世界のうちにはあるまじく候、よくよく体認してつとめおこなはるべき事なり。

書き下し

体充曰、さやうに真実の儒道をおこなふ工夫には、いかやうに仕たるがよく候や。師の曰、その工夫には先自満の浮気名利の欲心をすて間思雑慮の妄をのぞき明徳の心源をすまし、全孝の心法を受用するを根本第一とす、さて世間にましはる礼儀作法は、其国其処の風俗を本とし、何事も圭角なく目にたゝぬ様に取なし、いかにも作法うやうやしく謙徳を守り、かりそめにも人にまさらんと争ふ魔心なく、孝悌忠信の道を根に入てつとめ行ひ、親には孝行を尽し君に仕へては忠節をはけまし、よりをや位高人年老たる人、徳たかき人などをよく敬ひ、友達にたのもしく義理をたて、兄弟の間には友恭を行ひ、妻子には義慈をほどこすべし、かくのごとくにおこなふを儒道をおこなふと云なり、加様におこなひてさはりある所は、世界のうちにはあるまじく候、よくよく体認してつとめおこなはるべき事なり。

現代語訳

體充が言う。「そのように真実の儒道を行う工夫には、どのようにするのがよいか。」師が言う。「その工夫には、まず自満の浮ついた心、名利の欲心を捨て、とりとめのない思いや雑念の妄を除き、明徳の心の源を澄まし、全孝の心法を受用することを根本第一とする。さて世間に交わる礼儀作法は、その国その所の風俗を本とし、何事も角を立てず目立たないように振る舞い、いかにも作法をうやうやしくして謙虚の徳を守り、かりそめにも人に勝とうと争う魔心なく、孝悌忠信の道を根本に据えて勤め行い、親には孝行を尽くし、君に仕えては忠節に励み、親や位の高い人、年老いた人、徳の高い人などをよく敬い、友達には頼もしく義理を立て、兄弟の間では友愛と恭敬を行い、妻子には義と慈しみを施すべきである。このように行うのを儒道を行うというのである。このように行って差し障りのある所は、世界のうちにはないであろう。よくよく体認して勤め行われるべきことである。」

解説

具体的な実践の順序が示される段である。まず内面を整える。自慢の心と名利の欲を捨て、雑念を除いて明徳を澄まし、全孝の心法を用いることが根本である。そのうえで外に向かっては、土地の風俗に従って角を立てず、謙虚にうやうやしく振る舞い、人に勝とうと争わず、親・君・目上・友・兄弟・妻子それぞれに応じた道を尽くす。特別な形式は何もいらないというのが藤樹の答えである。まず心を整え、次に目の前の人間関係を一つずつ大切にすることは、どんな職場にもそのまま当てはまる。

この章句が説くこと

心法全孝謙孝悌明徳修養

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