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翁問答 / 下卷之本

さてまた財寶をつかふに公用私用妄費の三事あり、公用は天下のため國のためになる道ある軍役公役の造用なり、私用は飮食衣服宮室妻妾てまはりに差使ふ臣僕などの雜用なり、妄費は何の用にも立たぬなぐさみ一偏の造用なり、此妄費は凡夫ばかりのわざにて君子の上にはなき事なり、中庸不倚の心法をまもりて財寶を用ふれば、私欲のけがれ少しもなきによつて、淸白廉直にして私用も公用と變じ、同一天理となれり、中庸不倚の心法をしらず、凡夫の心まかせに財寶を用ふれば、或はきよう或はしわく私欲のけがれふかきによつて、公用も私用も皆妄費と變じて同一人欲となれり、よくよく體認あるべきことなり。

新字:さてまた財宝をつかふに公用私用妄費の三事あり、公用は天下のため国のためになる道ある軍役公役の造用なり、私用は飲食衣服宮室妻妾てまはりに差使ふ臣僕などの雑用なり、妄費は何の用にも立たぬなぐさみ一偏の造用なり、此妄費は凡夫ばかりのわざにて君子の上にはなき事なり、中庸不倚の心法をまもりて財宝を用ふれば、私欲のけがれ少しもなきによつて、清白廉直にして私用も公用と変じ、同一天理となれり、中庸不倚の心法をしらず、凡夫の心まかせに財宝を用ふれば、或はきよう或はしわく私欲のけがれふかきによつて、公用も私用も皆妄費と変じて同一人欲となれり、よくよく体認あるべきことなり。

書き下し

さてまた財宝をつかふに公用私用妄費の三事あり、公用は天下のため国のためになる道ある軍役公役の造用なり、私用は飲食衣服宮室妻妾てまはりに差使ふ臣僕などの雑用なり、妄費は何の用にも立たぬなぐさみ一偏の造用なり、此妄費は凡夫ばかりのわざにて君子の上にはなき事なり、中庸不倚の心法をまもりて財宝を用ふれば、私欲のけがれ少しもなきによつて、清白廉直にして私用も公用と変じ、同一天理となれり、中庸不倚の心法をしらず、凡夫の心まかせに財宝を用ふれば、或はきよう或はしわく私欲のけがれふかきによつて、公用も私用も皆妄費と変じて同一人欲となれり、よくよく体認あるべきことなり。

現代語訳

(師は続けた。)「さてまた、財宝を使うには公用・私用・妄費の三つがある。公用は、天下のため国のためになる道のある軍役や公役の費用である。私用は、飲食・衣服・住まい・妻妾や身の回りで使う家来などの雑費である。妄費は、何の役にも立たない慰み一方の費用である。この妄費は凡夫だけのわざで、君子にはないことである。中庸不倚の心法を守って財宝を用いれば、私欲のけがれが少しもないので、清白廉直であって私用も公用に変じ、同じ一つの天理となる。中庸不倚の心法を知らず、凡夫の心まかせに財宝を用いれば、あるいは気前よすぎ、あるいはけちとなって私欲のけがれが深いので、公用も私用もみな妄費に変じて、同じ一つの人欲となる。よくよく体認すべきことである。」

解説

支出を公用、私用、妄費の三つに分ける整理は今日の経費管理にも通じるが、藤樹の主眼は分類の先にある。同じ私用でも、中庸の心で使えば公用と同じ天理になり、私欲の心で使えば公用さえ妄費に変わるという。つまり支出の性格を最後に決めるのは、使う人の心の在り方だということだ。これは、費目の名目を整えても心が濁っていれば無駄遣いと変わらないという厳しい指摘でもある。経費の申請や予算の執行で、名目より動機を省みる姿勢を促す一節である。

この章句が説くこと

公用私用妄費天理人欲中庸

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