翁問答 / 下卷之本
奸雄はたとへ砒霜、巴豆などの毒藥の如し、毒藥にて責む可き實症の痼疾に用ふれば其病をいやす驗し速なり、そのしるしの速なるを見て、よき藥味なりと心得て、虛症の病者に與へぬれば、即時に死するものなり、そのごとく此奸雄も敵をやぶり、賊を擒にする才のたくましきを見て、よき臣下なりと心得て、大官大國をあたへ、或は國天下をあづけなどする故に、國をぬすまれ、天下をうばはれ給ふなり、明醫の砒霜巴豆の能毒をよくしりて卒爾にもちひざる如く、姦雄をも其の才と心とをよく看辨して、金銀たから物その外そのものゝすき好むものをとらせ、情ふかく禮儀たゞしくして、奸賊の心をとげざる樣におさむる事肝要なり、もし大國をあたへ權柄をあづけぬれば、必わざはひを起すものなり、天子諸侯よく御用心ましますべきこと也。
新字:奸雄はたとへ砒霜、巴豆などの毒薬の如し、毒薬にて責む可き実症の痼疾に用ふれば其病をいやす験し速なり、そのしるしの速なるを見て、よき薬味なりと心得て、虚症の病者に与へぬれば、即時に死するものなり、そのごとく此奸雄も敵をやぶり、賊を擒にする才のたくましきを見て、よき臣下なりと心得て、大官大国をあたへ、或は国天下をあづけなどする故に、国をぬすまれ、天下をうばはれ給ふなり、明医の砒霜巴豆の能毒をよくしりて卒爾にもちひざる如く、姦雄をも其の才と心とをよく看弁して、金銀たから物その外そのものゝすき好むものをとらせ、情ふかく礼儀たゞしくして、奸賊の心をとげざる様におさむる事肝要なり、もし大国をあたへ権柄をあづけぬれば、必わざはひを起すものなり、天子諸侯よく御用心ましますべきこと也。
書き下し
奸雄はたとへ砒霜、巴豆などの毒薬の如し、毒薬にて責む可き実症の痼疾に用ふれば其病をいやす験し速なり、そのしるしの速なるを見て、よき薬味なりと心得て、虚症の病者に与へぬれば、即時に死するものなり、そのごとく此奸雄も敵をやぶり、賊を擒にする才のたくましきを見て、よき臣下なりと心得て、大官大国をあたへ、或は国天下をあづけなどする故に、国をぬすまれ、天下をうばはれ給ふなり、明医の砒霜巴豆の能毒をよくしりて卒爾にもちひざる如く、姦雄をも其の才と心とをよく看弁して、金銀たから物その外そのものゝすき好むものをとらせ、情ふかく礼儀たゞしくして、奸賊の心をとげざる様におさむる事肝要なり、もし大国をあたへ権柄をあづけぬれば、必わざはひを起すものなり、天子諸侯よく御用心ましますべきこと也。
現代語訳
奸雄はたとえば砒霜や巴豆などの毒薬のようなものである。毒薬で攻めるべき実症の痼疾に用いれば、その病を癒す効き目は速い。その効き目の速いのを見て、よい薬味だと心得て虚症の病者に与えれば、即座に死ぬものである。それと同じく、この奸雄も敵を破り賊を捕らえる才のたくましいのを見て、よい臣下だと心得て大官や大国を与え、あるいは国や天下を預けたりするために、国を盗まれ天下を奪われなさるのである。名医が砒霜や巴豆の効能と毒をよく知って軽々しく用いないように、奸雄もその才と心とをよく見分けて、金銀や宝物、そのほかその者の好むものを与え、情深く礼儀正しくして、奸賊の心を遂げさせないように治めることが肝要である。もし大国を与え権柄を預ければ、必ず災いを起こすものである。天子・諸侯はよくご用心なさるべきことである」。
解説
この章句が説くこと
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