翁問答 / 下卷之本
聖人は唐土ならては生れたまはず、賢人聖人もまた世に稀なれば、世俗の心くらく奸雄の才にまよひ、心の奸賊を察すること能はず、英雄なりともてはやし國をぬすまれ天下をうばわれ給ふ天子諸侯古來おほし、よくよくめのさやをはずして御用心あるべき事なり、斯くいへばとて奸雄を棄るはひが事なり、使ひ樣が大事なりといふ事にて候、
新字:聖人は唐土ならては生れたまはず、賢人聖人もまた世に稀なれば、世俗の心くらく奸雄の才にまよひ、心の奸賊を察すること能はず、英雄なりともてはやし国をぬすまれ天下をうばわれ給ふ天子諸侯古来おほし、よくよくめのさやをはずして御用心あるべき事なり、斯くいへばとて奸雄を棄るはひが事なり、使ひ様が大事なりといふ事にて候、
書き下し
聖人は唐土ならては生れたまはず、賢人聖人もまた世に稀なれば、世俗の心くらく奸雄の才にまよひ、心の奸賊を察すること能はず、英雄なりともてはやし国をぬすまれ天下をうばわれ給ふ天子諸侯古来おほし、よくよくめのさやをはずして御用心あるべき事なり、斯くいへばとて奸雄を棄るはひが事なり、使ひ様が大事なりといふ事にて候、
現代語訳
聖人は唐土でなければお生まれにならず、賢人や聖人もまた世にまれなので、世俗の心が暗く奸雄の才に迷い、心の奸賊を察することができず、英雄だともてはやして、国を盗まれ天下を奪われた天子・諸侯は古来多い。よくよく目のさやを外して用心なさるべきことである。こう言ったからといって、奸雄を捨てるのは間違いである。使い方が大事だということである。
解説
聖人や賢人は世にまれなため、人々は奸雄の華々しい才に目を奪われ、その心の奸悪を見抜けずに英雄ともてはやし、国を奪われた君主が古来多いと藤樹は嘆く。だから目のさやを外してよく見よという。だが続けて、奸雄を捨てよとは言わず、使い方こそ大事だと付け加える。危険な才能を排除するのでなく、正しく用いる道を探るのが藤樹の現実感覚である。成果を上げるが信頼しきれない人材をどう扱うか。遠ざけるか重用するかの二択ではなく、役割と権限の与え方を工夫することが求められる。
この章句が説くこと
奸雄人材用心明徳任用目利き
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