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翁問答 / 下卷之本

體充問曰、世俗のとりさたに、學問は物よみ坊主衆あるひは出家などのわざにして、士のしわざにあらず、學問すぎたる人はぬるくて武用の役に立がたしなど云て、士のうちに學問する人あれば却てそしりぬ、箇樣のあやまりは何れの迷ひよりおこりたる事にておはしまし候や。師の曰、それは贋の學問はかり時めきて風俗あしく、衆生の心汚濁にそまりて、書物をよむばかりを學問と思ふより迷ひたる評判なり、それ學問は心のけがれを淸め身のおこなひをよくするを本實とす、

新字:体充問曰、世俗のとりさたに、学問は物よみ坊主衆あるひは出家などのわざにして、士のしわざにあらず、学問すぎたる人はぬるくて武用の役に立がたしなど云て、士のうちに学問する人あれば却てそしりぬ、箇様のあやまりは何れの迷ひよりおこりたる事にておはしまし候や。師の曰、それは贋の学問はかり時めきて風俗あしく、衆生の心汚濁にそまりて、書物をよむばかりを学問と思ふより迷ひたる評判なり、それ学問は心のけがれを清め身のおこなひをよくするを本実とす、

書き下し

体充問曰、世俗のとりさたに、学問は物よみ坊主衆あるひは出家などのわざにして、士のしわざにあらず、学問すぎたる人はぬるくて武用の役に立がたしなど云て、士のうちに学問する人あれば却てそしりぬ、箇様のあやまりは何れの迷ひよりおこりたる事にておはしまし候や。師の曰、それは贋の学問はかり時めきて風俗あしく、衆生の心汚濁にそまりて、書物をよむばかりを学問と思ふより迷ひたる評判なり、それ学問は心のけがれを清め身のおこなひをよくするを本実とす、

現代語訳

體充が問う。「世俗の取り沙汰では、学問は物読み坊主衆あるいは出家などのわざであって、武士の仕業ではない、学問をしすぎた人はぬるくて武用の役に立ちがたいなどと言って、武士の中に学問する人がいると、かえってそしります。このような誤りは何の迷いから起こったことでございますか。」師は言う。「それは偽の学問ばかりが時めいて風俗が悪く、人々の心が汚濁に染まって、書物を読むことばかりを学問と思うところから迷い出た評判である。そもそも学問は、心のけがれを清め、身の行いをよくすることを本実とするのである。」

解説

下卷之本は、武士社会にあった学問は坊主のすること、学問好きの武士は弱いという偏見から始まる。藤樹自身が伊予大洲藩に仕えた武士であり、学問を軽んじる同輩の空気を知っていたからこその問いであろう。藤樹は偏見の原因を、書物を読むことだけを学問と思い込む誤りにあるとし、学問の本実は心のけがれを清め、身の行いをよくすることだと定める。資格や読書量を学びと混同せず、自分の判断や振る舞いがよくなっているかで学びを測る視点は、現代の学び直しにもそのまま通じる。

この章句が説くこと

学問本実心武士偽の学問修養

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