翁問答 / 上卷之末
それしをき法度は主君の明徳をあきらかにして根本をさだめ、周禮などに記しをきたる聖人の成法をかんがへてその本意をさとり、まつりごとの鏡とし、時と所と位と三才相應の至善をよく分別して萬古不易の中庸をおこなふを眼とす、義理にて論じては合點ゆきがたければ、目の前なることにたとへて體認したるがよく候しかるゆへに禮記にしをきの仕樣を耕作の事をかりて議論發明あれば、耕作にたとへて見たるがよく候、時とは天の時、春夏秋冬運命の否泰をいふなり、たとへば冬田をうち種をふせ、耕作の作法をよくつとめても用にたゝぬものなり、これは耕作の仕法あしきによつて用にたゝぬではなく候、たゞ時の違ひたるにて勞して功なく候、これにて學問もまつりごとも運命氣數の時の宜をしるが第一なる事をあきらむべし、
新字:それしをき法度は主君の明徳をあきらかにして根本をさだめ、周礼などに記しをきたる聖人の成法をかんがへてその本意をさとり、まつりごとの鏡とし、時と所と位と三才相応の至善をよく分別して万古不易の中庸をおこなふを眼とす、義理にて論じては合点ゆきがたければ、目の前なることにたとへて体認したるがよく候しかるゆへに礼記にしをきの仕様を耕作の事をかりて議論発明あれば、耕作にたとへて見たるがよく候、時とは天の時、春夏秋冬運命の否泰をいふなり、たとへば冬田をうち種をふせ、耕作の作法をよくつとめても用にたゝぬものなり、これは耕作の仕法あしきによつて用にたゝぬではなく候、たゞ時の違ひたるにて労して功なく候、これにて学問もまつりごとも運命気数の時の宜をしるが第一なる事をあきらむべし、
書き下し
それしをき法度は主君の明徳をあきらかにして根本をさだめ、周礼などに記しをきたる聖人の成法をかんがへてその本意をさとり、まつりごとの鏡とし、時と所と位と三才相応の至善をよく分別して万古不易の中庸をおこなふを眼とす、義理にて論じては合点ゆきがたければ、目の前なることにたとへて体認したるがよく候しかるゆへに礼記にしをきの仕様を耕作の事をかりて議論発明あれば、耕作にたとへて見たるがよく候、時とは天の時、春夏秋冬運命の否泰をいふなり、たとへば冬田をうち種をふせ、耕作の作法をよくつとめても用にたゝぬものなり、これは耕作の仕法あしきによつて用にたゝぬではなく候、たゞ時の違ひたるにて労して功なく候、これにて学問もまつりごとも運命気数の時の宜をしるが第一なる事をあきらむべし、
現代語訳
そもそも政治の法度は、主君の明徳を明らかにして根本を定め、『周礼』などに記し置かれた聖人の成法を考えてその本意を悟り、政治の鑑とし、時と所と位という三才相応の至善をよく分別して、万古不易の中庸を行うのを眼目とする。義理で論じても納得しにくいので、目の前のことにたとえて体認するのがよい。だから『礼記』に、政治のしかたを耕作のことを借りて論じ明らかにしているので、耕作にたとえて見るのがよい。時とは天の時、春夏秋冬や運命の盛衰をいう。たとえば冬に田を打ち種をまき、耕作の作法をよく努めても役に立たないものである。これは耕作のしかたが悪いから役に立たないのではない。ただ時が違っているので、苦労しても功がないのである。これによって、学問も政治も、運命や気数の時の宜しきを知るのが第一であることを明らかにすべきである。
解説
この章句が説くこと
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