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翁問答 / 上卷之末

體充問曰、軍法にはいろいろ習ひありて、其流多しと承り候、大將たる人の知らで叶はぬ事にて御座候や。師の曰、軍法は大將の知らで叶はぬ事にて候、大將の軍法をしらざるは、譬へば矢はぎのはぐほうを知らざるが如し、軍法を人のかたちにたとへて云へば、仁は心なり覘釁用間はまなこなり、奇正は手足なり、旌旗金皷兵具のこしらへもちひ樣の作法日どりなどは、皮膚毛髪なり、

新字:体充問曰、軍法にはいろいろ習ひありて、其流多しと承り候、大将たる人の知らで叶はぬ事にて御座候や。師の曰、軍法は大将の知らで叶はぬ事にて候、大将の軍法をしらざるは、譬へば矢はぎのはぐほうを知らざるが如し、軍法を人のかたちにたとへて云へば、仁は心なり覘釁用間はまなこなり、奇正は手足なり、旌旗金鼓兵具のこしらへもちひ様の作法日どりなどは、皮膚毛髪なり、

書き下し

体充問曰、軍法にはいろいろ習ひありて、其流多しと承り候、大将たる人の知らで叶はぬ事にて御座候や。師の曰、軍法は大将の知らで叶はぬ事にて候、大将の軍法をしらざるは、譬へば矢はぎのはぐほうを知らざるが如し、軍法を人のかたちにたとへて云へば、仁は心なり覘釁用間はまなこなり、奇正は手足なり、旌旗金鼓兵具のこしらへもちひ様の作法日どりなどは、皮膚毛髪なり、

現代語訳

體充が問うた。「軍法にはいろいろな習いがあって、その流派も多いと承りました。大将たる人が知らずにすまないことでございますか。」師は言った。「軍法は大将が知らずにすまないことである。大将が軍法を知らないのは、たとえば矢作りが矢を矧ぐ方法を知らないようなものである。軍法を人の形にたとえて言えば、仁は心である。敵の隙をうかがい間者を用いることは眼である。奇正の用兵は手足である。旗や鐘太鼓、武具の作りと用い方の作法、日取りなどは皮膚や毛髪である。」

解説

軍法の構造を人の体になぞらえて示す段である。根本の心にあたるのは仁であり、敵の隙をうかがうことや間者の活用が眼、奇策と正攻法の使い分けが手足とされる。旗や太鼓、武具の作法や日取りの吉凶は、皮膚や毛髪にあたる表面にすぎない。『孫子』の兵法にも通じる要点を押さえつつ、その根に仁を据えるところに儒者藤樹の独自性がある。仕事の手法でも、形式や道具より、目的と状況判断こそが核心である。表面の作法の違いに目を奪われず、心・眼・手足の順に本質を見極めたい。

この章句が説くこと

軍法仁兵法奇正大将本質

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