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翁問答 / 上卷之本

體充曰、學問は皆ひとつなりとこそ存候へ、しかるに正眞と贋と二色ありとおほせられ候はいかなる差別にて御座候や。師の曰、正眞の學問は伏犧のおしへはじめ給ふ儒道なり、昔はをしへも學問も、此しやうじんの外はなかりしに世のすへになりていつとなくもろこしにもえびすぐにゝも、學問のにせあまた出來てより、贋がちになりて正眞は衰微するなり、もろこしにも一たびは贋ものばかり時めきて、正眞をばとり失ひたる事あり、正眞をまなびてさへ學びそこなひあるものなれば、ましてにせの學問をしては、心だて作法あしくなりぬる事尤にて候。

新字:体充曰、学問は皆ひとつなりとこそ存候へ、しかるに正真と贋と二色ありとおほせられ候はいかなる差別にて御座候や。師の曰、正真の学問は伏犠のおしへはじめ給ふ儒道なり、昔はをしへも学問も、此しやうじんの外はなかりしに世のすへになりていつとなくもろこしにもえびすぐにゝも、学問のにせあまた出来てより、贋がちになりて正真は衰微するなり、もろこしにも一たびは贋ものばかり時めきて、正真をばとり失ひたる事あり、正真をまなびてさへ学びそこなひあるものなれば、ましてにせの学問をしては、心だて作法あしくなりぬる事尤にて候。

書き下し

体充曰、学問は皆ひとつなりとこそ存候へ、しかるに正真と贋と二色ありとおほせられ候はいかなる差別にて御座候や。師の曰、正真の学問は伏犠のおしへはじめ給ふ儒道なり、昔はをしへも学問も、此しやうじんの外はなかりしに世のすへになりていつとなくもろこしにもえびすぐにゝも、学問のにせあまた出来てより、贋がちになりて正真は衰微するなり、もろこしにも一たびは贋ものばかり時めきて、正真をばとり失ひたる事あり、正真をまなびてさへ学びそこなひあるものなれば、ましてにせの学問をしては、心だて作法あしくなりぬる事尤にて候。

現代語訳

體充が言った。「学問はみな一つだと思っておりましたが、正真と偽物の二種類があるとおっしゃるのは、どういう違いなのでございますか。」師は言った。「正真の学問とは、伏羲が教えを始められた儒道である。昔は教えも学問もこの正真のほかにはなかったが、世が末になって、いつのまにか中国にも異国にも偽の学問が数多く現れてから、偽物が優勢になって正真は衰えた。中国でも一度は偽物ばかりが栄えて、正真を見失ったことがある。正真を学んでさえ学びそこなう者がいるのだから、まして偽の学問をすれば、心だてや振る舞いが悪くなるのはもっともである。」

解説

正真の学問を、伝説の聖王伏羲に始まる儒道と規定する段である。藤樹は学問を知識の体系ではなく、人の生き方を正す古来一つの道と捉え、その後に派生した諸学を偽物とみなす。中国でも偽物ばかりが時めいた時代があったという指摘には、儒学が字句の解釈や詩文に流れた歴史への批判が含まれている。正しい教えを学んでさえ学び損ねることがあるという言葉には、学ぶ側の姿勢を問う厳しさがある。どんなに良い研修や本でも、受け取り方を誤れば身につかない。教えの質と学ぶ者の志の両方が問われているのである。

この章句が説くこと

学問正真儒道伏羲偽学志

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