翁問答 / 上卷之本
妻順正の二德を以て、夫に事ふるを本とす、順は心立てにゆわに物言ひ、素振り立ふるまい迄も、和らかに從ふ德なり、正は義理作法を正しく守る德なり、妻は夫を天と賴み、夫の家を妻の家となし、夫婦一體の理なる故に、我本生の父母を父母とせずして、夫の父母を父母とするは、聖人の定る所にして、不易の天則なり、然る故に先舅姑に孝行なるを順正の第一とす、扨女の三德を守るは、女事を能く勤め作法正しく、夫の下知に從ひ家を齊へ、子孫を育て宗族を和睦し、家人に恩を施すは、婦德の大槪なり、夫は陽德に從ひ、外を治めて和義の德を明かにして妻を倡ふ、妻は陰德に從ひ內を治て順正の德を明かにして夫に從ひ、男女陰陽內外の差別如此正して、家治り父母兄弟子孫臣妾皆相親睦して、和氣合同する故に、夫婦の道別を本とす此道理天命の本然自からある故に、五敎の第三に夫婦有別と說き給へり
新字:妻順正の二徳を以て、夫に事ふるを本とす、順は心立てにゆわに物言ひ、素振り立ふるまい迄も、和らかに従ふ徳なり、正は義理作法を正しく守る徳なり、妻は夫を天と頼み、夫の家を妻の家となし、夫婦一体の理なる故に、我本生の父母を父母とせずして、夫の父母を父母とするは、聖人の定る所にして、不易の天則なり、然る故に先舅姑に孝行なるを順正の第一とす、扨女の三徳を守るは、女事を能く勤め作法正しく、夫の下知に従ひ家を斉へ、子孫を育て宗族を和睦し、家人に恩を施すは、婦徳の大槪なり、夫は陽徳に従ひ、外を治めて和義の徳を明かにして妻を倡ふ、妻は陰徳に従ひ内を治て順正の徳を明かにして夫に従ひ、男女陰陽内外の差別如此正して、家治り父母兄弟子孫臣妾皆相親睦して、和気合同する故に、夫婦の道別を本とす此道理天命の本然自からある故に、五教の第三に夫婦有別と説き給へり
書き下し
妻順正の二徳を以て、夫に事ふるを本とす、順は心立てにゆわに物言ひ、素振り立ふるまい迄も、和らかに従ふ徳なり、正は義理作法を正しく守る徳なり、妻は夫を天と頼み、夫の家を妻の家となし、夫婦一体の理なる故に、我本生の父母を父母とせずして、夫の父母を父母とするは、聖人の定る所にして、不易の天則なり、然る故に先舅姑に孝行なるを順正の第一とす、扨女の三徳を守るは、女事を能く勤め作法正しく、夫の下知に従ひ家を斉へ、子孫を育て宗族を和睦し、家人に恩を施すは、婦徳の大槪なり、夫は陽徳に従ひ、外を治めて和義の徳を明かにして妻を倡ふ、妻は陰徳に従ひ内を治て順正の徳を明かにして夫に従ひ、男女陰陽内外の差別如此正して、家治り父母兄弟子孫臣妾皆相親睦して、和気合同する故に、夫婦の道別を本とす此道理天命の本然自からある故に、五教の第三に夫婦有別と説き給へり
現代語訳
妻は順と正の二徳をもって夫に仕えることを本とする。順とは心構えが柔和で、物の言い方や顔つき、立ち居振る舞いまで和らかに従う徳である。正とは義理や作法を正しく守る徳である。妻は夫を天と頼み、夫の家を妻の家とし、夫婦一体の理であるから、自分の生家の父母を父母とせずに、夫の父母を父母とするのは、聖人の定めたことで、変わらない天の法則である。それゆえまず舅姑に孝行であることを順正の第一とする。さて女の三徳を守ることは、女の仕事をよく勤め、作法正しく、夫の言いつけに従い、家を斉え、子孫を育て、一族と和睦し、家の者に恩を施すことで、これが婦徳のあらましである。夫は陽の徳に従い、外を治めて和義の徳を明らかにして妻を導き、妻は陰の徳に従い、内を治めて順正の徳を明らかにして夫に従う。男女・陰陽・内外の区別がこのように正しくて、家が治まり、父母・兄弟・子孫・召使いがみな親しみ睦み合って、和やかな気が一つになるので、夫婦の道は別を本とする。この道理は天命の本然として自ずからあるので、五教の第三に「夫婦別有り」と説かれた。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』内篇・倫理・惟だ和のみ妙と為し、深と為し、速と為し、難と為す人子の和氣・愉色・婉容、發し得て深き時、養ひ得て定まる時、父母の冷面寒鐵、雷霆震怒に任せて、只だ是れ這の一腔の溫意、一面の春風なれば、則ち自ら回らざるの天無く、自ら屢〻變ずるの天無し。讒譖何に由りてか入らん、嫌隙何に由りてか作らん。其の次は敬慎に如くは莫し。夔夔齋栗は、敬慎の至りなり、故に瞽瞍も亦た允に若へり。溫和は人に示すに愛す可きを以てし、父母の惡怒を消融す。敬慎は人に示すに矜れむ可きを以てし、父母の悲憐を激發す。所謂誠意を積みて以て之を感動する者は、和を養ひ敬を致すの謂ひなり。蓋し親を格すの功は、惟だ和のみ妙と為し、深と為し、速と為し、難と為す。至性純孝の者に非ざれば能はず。敬慎は猶ほ勉強す可きのみ。而今の人子は涼薄の色、惰慢の身、驕蹇の性を以てし、父母の怒りを犯すに及びて、既に挽回するを肯んぜず、又倨傲にして以て之を甚だしくす。此れ其の人は孝弟の外に在り、故に論ずるに足らず。即ち平日溫愉の子有るも、父母の悅ばざるに當たりて亦た慍見し、或いは疑ひを生じて怒りを遷す者、或いは意に遷怒無くして嫌を避けざる者、或いは善く嫌を避けずして愈〻避けて愈〻嫌を冒す者あり。隙を積みて釁を成し、遂に不祥を致す。豈に父母の慈ならざらんや。此れ孤臣孽子の法戒、志を堅くし仁に熟するの妙道なり。
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『慎思録』巻之一天地は大寒大暑、大風大雨、迅雷地震、大変の時に方ると雖も、其の太和を失はず。是を以て万物を発育して、生理息まず。人は艱難多事の時、窮困危変の時に方り、横逆払戻の事に遇ふと雖も、従容自得、随処にして之を楽しむの工夫を忘るべからず。中庸の所謂君子は其の位に素して行ひ、入るとして自得せざること無しといふ者なり。苟も此くの如くならざれば、則ち天地の和気と相似ず。
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『十七条憲法』第一条一に曰わく、和(わ)を以(も)って貴(たっと)しと為(な)し、忤(さから)うこと無きを宗(むね)と為(せ)よ。人は皆(みな)党(たむら)有り、亦(また)達(さと)れる者少なし。是(ここ)を以て、或(あるい)は君父(くんぷ)に順(したが)わず、乍(あるいは)隣里(りんり)に違(たが)う。然(しか)れども、上(かみ)和(やわら)ぎ下(しも)睦(むつ)びて、事(こと)を論(あげつら)うに諧(かな)うときは、則(すなわ)ち事理(じり)自(おのずか)ら通(つう)ず。何事(なにごと)か成らざらん。
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言志四録・南洲手抄三軍和せずば、以て戦を言ひ難し。百官和せずば、以て治を言ひ難し。書に云ふ、寅を同じうし恭を協せ和衷せよやと。唯だ一の和字、治乱を一串す。
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『慎思録』巻之一心を平らかにし気を和らぐるは、是れ身を養ひ徳を養ふの工夫なり。気を養ひて暴ふこと無きの工夫は、温恭和順、従容として迫らず、声色を動かさざるに在り。気を養ふこと此くの如くなれば、以て其の楽しみを失はざるべし。温恭の二字、経伝多く之を言ふ。是れ善を為すの初めなり。苟も是くの如くならざれば、則ち善を為すこと能はず。人に接するの道、当に是くの如くなるべし。
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