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翁問答 / 上卷之本

軍忠を以て論ずれば、二心無く身を棄て、禮儀正しく情深く、英雄の心を取り、軍兵を懷け謀を帷幄の內にめぐらし、勝つ事を千里の外に決し、百戰百勝の功を立つるを大忠と云ふ、是は軍の大將の忠節なり、二心無く身を棄てさきがけをして、鑓を突き首を取るを小忠と云ふ、是は半武者の忠節なり、扨又庶人を棘草の臣と云ふ、其國に產業を勤め、生理を遂ぐるは主君の恩澤なる故に、扶持を被らざれ共、臣下と云ふなり、其國の仕置法度を能く守り、其職分を能く勤めて、年貢公役を懈怠せず、一心に國君を恐れ、敬ことは庶人の忠節なり、君は仁禮の德に從て臣下を使ひ、臣下は忠敬の道を守つて、君に事へて、君臣交泰する道理、天命の本然自から有る義なる故に、五敎第二君臣有義と說給へり、

新字:軍忠を以て論ずれば、二心無く身を棄て、礼儀正しく情深く、英雄の心を取り、軍兵を懐け謀を帷幄の内にめぐらし、勝つ事を千里の外に決し、百戦百勝の功を立つるを大忠と云ふ、是は軍の大将の忠節なり、二心無く身を棄てさきがけをして、鑓を突き首を取るを小忠と云ふ、是は半武者の忠節なり、扨又庶人を棘草の臣と云ふ、其国に産業を勤め、生理を遂ぐるは主君の恩沢なる故に、扶持を被らざれ共、臣下と云ふなり、其国の仕置法度を能く守り、其職分を能く勤めて、年貢公役を懈怠せず、一心に国君を恐れ、敬ことは庶人の忠節なり、君は仁礼の徳に従て臣下を使ひ、臣下は忠敬の道を守つて、君に事へて、君臣交泰する道理、天命の本然自から有る義なる故に、五教第二君臣有義と説給へり、

書き下し

軍忠を以て論ずれば、二心無く身を棄て、礼儀正しく情深く、英雄の心を取り、軍兵を懐け謀を帷幄の内にめぐらし、勝つ事を千里の外に決し、百戦百勝の功を立つるを大忠と云ふ、是は軍の大将の忠節なり、二心無く身を棄てさきがけをして、鑓を突き首を取るを小忠と云ふ、是は半武者の忠節なり、扨又庶人を棘草の臣と云ふ、其国に産業を勤め、生理を遂ぐるは主君の恩沢なる故に、扶持を被らざれ共、臣下と云ふなり、其国の仕置法度を能く守り、其職分を能く勤めて、年貢公役を懈怠せず、一心に国君を恐れ、敬ことは庶人の忠節なり、君は仁礼の徳に従て臣下を使ひ、臣下は忠敬の道を守つて、君に事へて、君臣交泰する道理、天命の本然自から有る義なる故に、五教第二君臣有義と説給へり、

現代語訳

軍の忠で論じれば、二心なく身を捨て、礼儀正しく情け深く、英雄の心をつかみ、軍兵を手なずけ、謀を帷幄の中にめぐらして、勝つことを千里の外に決し、百戦百勝の功を立てるのを大忠という。これは軍の大将の忠節である。二心なく身を捨てて先駆けをし、槍を突き首を取るのを小忠という。これは一兵卒の忠節である。さてまた、庶人を棘草の臣という。その国で生業を勤め生計を遂げられるのは主君の恩沢であるから、扶持を受けていなくても臣下というのである。その国の政令や法度をよく守り、その職分をよく勤めて、年貢や公役を怠らず、一心に国君を恐れ敬うのは庶人の忠節である。君は仁と礼の徳に従って臣下を使い、臣下は忠と敬の道を守って君に仕え、君臣が通い合う道理は、天命の本然として自ずからある義であるから、五教の第二に「君臣義有り」と説かれた。

解説

戦場での大忠と小忠、そして庶人の忠を述べて君臣の段を結ぶ。「謀を帷幄の中にめぐらし、勝つことを千里の外に決す」は『史記』高祖本紀で張良を評した言葉として知られる。大将は人心をつかみ作戦を立て、兵卒は先駆けして戦うという役割分担である。さらに扶持を受けない庶人も、国で暮らせるのは主君の恩沢であるから臣下だとし、法を守り年貢を納めることを庶人の忠とする。君の仁礼と臣の忠敬が通い合うことが君臣の義である。役割によって果たし方は違っても、互いの務めを尽くし合う関係こそが組織の健全さを支えている。

この章句が説くこと

忠君臣仁義役割庶人恩

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