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翁問答 / 上卷之本

然る如く稚き者の心立て身持ちも、父母乳母等の心立身持を見あやかり聞あやかるに因て、父母乳母の徳敎を子孫に敎ゆる根本とする故に、乳母の人柄を撰み、父母の身を治め、心正して全孝の道を、口に語り身に行ひて、敎への根本を培養すべし、八ツ九ツにも成りぬる時は、生付利根なる者には、孝經を讀せ、折々孝經の內急用なる藝より習はし、才德成就の敎へを專とすべし、生付愚鈍にして、才德成就の望成り難きには、孝經の義理を何時となく語り聞せて、孝德の本心を失はずして、好人となる敎を專とす可し、成童の時よりの敎は、師匠と友を撰ぶを敎の肝要とす、扨すきわいは夫々の氣用に從ひ、夫々の運命を考へて、本分の生理、士農工商の內をはかり定むべし、是子に敎への大方なり、

新字:然る如く稚き者の心立て身持ちも、父母乳母等の心立身持を見あやかり聞あやかるに因て、父母乳母の徳教を子孫に教ゆる根本とする故に、乳母の人柄を撰み、父母の身を治め、心正して全孝の道を、口に語り身に行ひて、教への根本を培養すべし、八ツ九ツにも成りぬる時は、生付利根なる者には、孝経を読せ、折々孝経の内急用なる芸より習はし、才徳成就の教へを専とすべし、生付愚鈍にして、才徳成就の望成り難きには、孝経の義理を何時となく語り聞せて、孝徳の本心を失はずして、好人となる教を専とす可し、成童の時よりの教は、師匠と友を撰ぶを教の肝要とす、扨すきわいは夫々の気用に従ひ、夫々の運命を考へて、本分の生理、士農工商の内をはかり定むべし、是子に教への大方なり、

書き下し

然る如く稚き者の心立て身持ちも、父母乳母等の心立身持を見あやかり聞あやかるに因て、父母乳母の徳教を子孫に教ゆる根本とする故に、乳母の人柄を撰み、父母の身を治め、心正して全孝の道を、口に語り身に行ひて、教への根本を培養すべし、八ツ九ツにも成りぬる時は、生付利根なる者には、孝経を読せ、折々孝経の内急用なる芸より習はし、才徳成就の教へを専とすべし、生付愚鈍にして、才徳成就の望成り難きには、孝経の義理を何時となく語り聞せて、孝徳の本心を失はずして、好人となる教を専とす可し、成童の時よりの教は、師匠と友を撰ぶを教の肝要とす、扨すきわいは夫々の気用に従ひ、夫々の運命を考へて、本分の生理、士農工商の内をはかり定むべし、是子に教への大方なり、

現代語訳

そのように、幼い者の心構えや身持ちも、父母や乳母などの心構えや身持ちを見習い聞き習うことによるので、父母・乳母の徳教を子孫を教える根本とする。それゆえ乳母の人柄を選び、父母は身を治め心を正して、全孝の道を口に語り身に行って、教えの根本を培うべきである。八つ九つにもなった時は、生まれつき利発な者には『孝経』を読ませ、折々『孝経』のうち急ぎ必要な芸から習わせ、才徳成就の教えを専らとすべきである。生まれつき愚鈍で才徳成就の望みが難しい者には、『孝経』の義理をいつとなく語り聞かせて、孝徳の本心を失わずによい人となる教えを専らとすべきである。成童の時からの教えは、師匠と友を選ぶことを教えの肝要とする。さて生業はそれぞれの器用に従い、それぞれの運命を考えて、本分の生計として士農工商のいずれかを計り定めるべきである。これが子に教えるあらましである。

解説

年齢と資質に応じた教育の段取りを示す段である。幼い時は親や乳母の姿そのものが教えであり、八九歳になれば利発な子には『孝経』と実用の芸を、そうでない子には孝の心を語り聞かせてよい人となることを目指す。成童、つまり十五歳前後からは師と友を選ぶことが肝要とされる。最後に職業は本人の向き不向きと運に応じて選ばせるという。一律の教育ではなく、資質に応じて目標を変える柔軟さが特徴である。人材育成でも、全員を同じ型にはめず、それぞれの持ち味と段階に合わせて導くことが大切である。

この章句が説くこと

教育孝経孝資質師友育成

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