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翁問答 / 上卷之本

五倫の道を細かに分けて論ずれば、五典十義となれり、先子の孝行と云ふは、人間百行の源、人倫第一の急務なる故に聖人の五敎に父子有親と第一に說給へり、孝德を明らかにせんと思ふには、先父母の恩德を觀念すべし、胎育の始より十ヶ月の間、母は懷孕の苦みを受け、十病九死の身となり、父は孕子の保全產育の安穩なる可き事を願ひ憂て、千辛萬苦を心に忘れず、臨產の時至ては母の身は切りさく程の惱みを受け、父の心は煩熱の苦みを抱けり、

新字:五倫の道を細かに分けて論ずれば、五典十義となれり、先子の孝行と云ふは、人間百行の源、人倫第一の急務なる故に聖人の五教に父子有親と第一に説給へり、孝徳を明らかにせんと思ふには、先父母の恩徳を観念すべし、胎育の始より十ヶ月の間、母は懐孕の苦みを受け、十病九死の身となり、父は孕子の保全産育の安穏なる可き事を願ひ憂て、千辛万苦を心に忘れず、臨産の時至ては母の身は切りさく程の悩みを受け、父の心は煩熱の苦みを抱けり、

書き下し

五倫の道を細かに分けて論ずれば、五典十義となれり、先子の孝行と云ふは、人間百行の源、人倫第一の急務なる故に聖人の五教に父子有親と第一に説給へり、孝徳を明らかにせんと思ふには、先父母の恩徳を観念すべし、胎育の始より十ヶ月の間、母は懐孕の苦みを受け、十病九死の身となり、父は孕子の保全産育の安穏なる可き事を願ひ憂て、千辛万苦を心に忘れず、臨産の時至ては母の身は切りさく程の悩みを受け、父の心は煩熱の苦みを抱けり、

現代語訳

五倫の道を細かに分けて論じれば、五典十義となる。まず子の孝行というのは、人間のあらゆる行いの源であり、人倫第一の急務であるから、聖人の五教に「父子親有り」と第一に説かれた。孝徳を明らかにしようと思うなら、まず父母の恩徳を観念すべきである。胎内で育つ始めから十か月の間、母は懐妊の苦しみを受け、十に九は死ぬような身となり、父は宿った子が無事に育ち安らかに生まれることを願い憂えて、千辛万苦を心に忘れない。出産の時になると、母の身は切り裂かれるほどの悩みを受け、父の心は煩い熱するような苦しみを抱いた。

解説

ここから五典十義、すなわち父子・君臣・夫婦・長幼・朋友それぞれの双方の道が詳しく説かれる。最初は子の孝行で、藤樹はまず父母の恩徳を「観念」せよと言う。観念とは心に思い浮かべてじっくり味わうことである。懐妊から出産までの母の苦しみ、父の憂いを具体的に描くことで、抽象的な孝を実感へと引き寄せる。藤樹自身、故郷の母への孝養のために伊予大洲藩を辞して近江に帰った人であり、その思いが筆に表れている。当たり前と思っている支えに具体的に思いを巡らすことは、感謝や責任感の出発点になる。

この章句が説くこと

孝恩父母観念五典感謝

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