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翁問答 / 上卷之本

體充問曰庶人の孝行はいかゞ。師の曰農工商何れも其所作を能勤め怠らず財穀を貯へ、むざと費やさず身持心立能愼み、公儀を恐れて法度に背かず、我身子の事をば第二とし、父母の衣服食物を第一に思ひ入、心力を盡して及ぬきはをも調へて父母の受悅ぶ樣にもてなして能く養ふは庶人の孝なり。體充問曰五等の孝の內、只庶人に計り父母を養ふと說給ふは、如何なる故にて候や。師の曰士より上は財乏しからず養ふ事は云ふに及はず、庶人は財乏しくして、充分に心を苦しめ力を盡さゞれば、衣服食物足らざる故に、庶人に計り養ひを說給ふ五等皆其位の內にて第一重き所を取りて、說給ふ道理は皆相通するなり、能く體認すべし。

新字:体充問曰庶人の孝行はいかゞ。師の曰農工商何れも其所作を能勤め怠らず財穀を貯へ、むざと費やさず身持心立能慎み、公儀を恐れて法度に背かず、我身子の事をば第二とし、父母の衣服食物を第一に思ひ入、心力を尽して及ぬきはをも調へて父母の受悦ぶ様にもてなして能く養ふは庶人の孝なり。体充問曰五等の孝の内、只庶人に計り父母を養ふと説給ふは、如何なる故にて候や。師の曰士より上は財乏しからず養ふ事は云ふに及はず、庶人は財乏しくして、充分に心を苦しめ力を尽さゞれば、衣服食物足らざる故に、庶人に計り養ひを説給ふ五等皆其位の内にて第一重き所を取りて、説給ふ道理は皆相通するなり、能く体認すべし。

書き下し

体充問曰庶人の孝行はいかゞ。師の曰農工商何れも其所作を能勤め怠らず財穀を貯へ、むざと費やさず身持心立能慎み、公儀を恐れて法度に背かず、我身子の事をば第二とし、父母の衣服食物を第一に思ひ入、心力を尽して及ぬきはをも調へて父母の受悦ぶ様にもてなして能く養ふは庶人の孝なり。体充問曰五等の孝の内、只庶人に計り父母を養ふと説給ふは、如何なる故にて候や。師の曰士より上は財乏しからず養ふ事は云ふに及はず、庶人は財乏しくして、充分に心を苦しめ力を尽さゞれば、衣服食物足らざる故に、庶人に計り養ひを説給ふ五等皆其位の内にて第一重き所を取りて、説給ふ道理は皆相通するなり、能く体認すべし。

現代語訳

体充が問うた。庶人の孝行はどうでしょうか。師は答えた。農工商のいずれも、その仕事をよく勤めて怠らず、財や穀物を貯えてむやみに費やさず、身持ちや心構えをよく慎み、お上を恐れて法度に背かず、我が身や妻子のことは二の次とし、父母の衣服や食物を第一に思い、心と力を尽くして及ばない所までも調えて、父母が受け入れ喜ぶようにもてなして、よく養うのが庶人の孝である。体充が問うた。五等の孝のうち、庶人だけに父母を養うことを説かれるのは、どういうわけでしょうか。師は答えた。士より上は財に乏しくないので、養うことは言うまでもない。庶人は財に乏しく、十分に心を苦しめ力を尽くさなければ衣服や食物が足りないので、庶人にだけ養うことを説かれたのである。五等はみなその位の中で第一に重い所を取って説かれたのであり、道理はみな相通じている。よく体得すべきである。

解説

『孝経』庶人章をふまえ、農工商の民の孝を説く段である。仕事をよく勤め、倹約し、法を守り、自分や妻子より父母の衣食を先にすることが中身である。続く問答で、なぜ庶人にだけ「養う」ことを説くのかと問われ、藤樹は各身分にとって最も重い所を取り出して説いたのであり、道理は相通じると答える。物質的に余裕のない庶民にとって、親を養うこと自体が大きな努力だという現実への配慮がうかがえる。自分の立場で一番難しいところに誠実を尽くすことが孝になるという考え方は、置かれた条件の中で最善を尽くすことの大切さを教えている。

この章句が説くこと

孝勤勉倹約父母庶人養い

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