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翁問答 / 上卷之本

體充問曰士の孝行はいかゞ。師の曰かりそめにも二心なく、我身を棄てゝ君を愛敬する心を失はず職分を能保ち勤め、其長を敬ひ從ひ、傍輩にたのもしく僞りなく、人相和らかに懇ろにして、立ふるまひ言ばつき賤しからず、心立身持義理にかなひ、肝要の禮法藝能抔うとうとしからず、軍陣に臨か又は君長の難に逢へる時は、樊噲おも欺く程の武勇を出し、武功を立、其祿位を保ち、祭祀を守るは士の孝行の大槪なり。

新字:体充問曰士の孝行はいかゞ。師の曰かりそめにも二心なく、我身を棄てゝ君を愛敬する心を失はず職分を能保ち勤め、其長を敬ひ従ひ、傍輩にたのもしく偽りなく、人相和らかに懇ろにして、立ふるまひ言ばつき賤しからず、心立身持義理にかなひ、肝要の礼法芸能抔うとうとしからず、軍陣に臨か又は君長の難に逢へる時は、樊噲おも欺く程の武勇を出し、武功を立、其禄位を保ち、祭祀を守るは士の孝行の大槪なり。

書き下し

体充問曰士の孝行はいかゞ。師の曰かりそめにも二心なく、我身を棄てゝ君を愛敬する心を失はず職分を能保ち勤め、其長を敬ひ従ひ、傍輩にたのもしく偽りなく、人相和らかに懇ろにして、立ふるまひ言ばつき賤しからず、心立身持義理にかなひ、肝要の礼法芸能抔うとうとしからず、軍陣に臨か又は君長の難に逢へる時は、樊噲おも欺く程の武勇を出し、武功を立、其禄位を保ち、祭祀を守るは士の孝行の大槪なり。

現代語訳

体充が問うた。士の孝行はどうでしょうか。師は答えた。かりそめにも二心なく、我が身を捨てて君を愛敬する心を失わず、職分をよく保って勤め、その長を敬い従い、同輩には頼もしく偽りなく、人あたりは柔らかで懇ろで、立ち居振る舞いや言葉つきは卑しくなく、心構えや身持ちは義理にかない、肝要な礼法や芸能などにも疎くなく、戦陣に臨むか、または主君や長の危難に遭った時には、樊噲をも欺くほどの武勇を出して武功を立て、その禄と位を保って祭祀を守るのが、士の孝行のあらましである。

解説

『孝経』士章をふまえ、武士の孝を述べる段である。二心なき忠誠、職分の遂行、上役への敬意、同輩への誠実、柔らかな人当たり、品位ある言動、礼法や芸能の素養、いざという時の武勇と、求められる資質は幅広い。樊噲は漢の高祖に仕えた勇将で、鴻門の会で主君を守った故事で知られる。禄位を保って祭祀を守るとは、家を絶やさず先祖を祀り続けることで、それが士にとっての孝の完成とされる。職務への誠実さ、同僚への信頼、人当たりの良さ、いざという時の踏ん張りという組み合わせは、現代の働き手の理想像としても通用する。

この章句が説くこと

孝忠職分誠実武勇士

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