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翁問答 / 上卷之本

然る故に此寳を能く守れば、天子は永く四海の富を保ち、諸侯は永く一國の榮華を受け、卿太夫は其家を興し、士は其名を顯はし位を上り、庶人は財穀を積み貯へて其樂をたのしめり、此寳を棄てては人間の道立ず人間の道立ざる而已ならず、天地の道も立ず、天地の道立ざる而已ならず、太虛の神化も行はれず、太虛三才宇宙鬼神造化生死悉く此寶にて包括するなり、此寶を求め學ぶを儒者の學問と云なり、生れながらにして保合し玉ふを聖人と云ふ、學問に因て保合し能く守り行ふを賢人と云なり、孔子萬世の暗を照さん爲めに此寶を求め學ぶ鏡に孝經を造り給ふと雖秦の代よりこのかた二千餘年の間、十分に學び得たる人稀なり今大明の代に至りて、能く知り能く守る人多し、大舜は此寳を保合し給ひて、庶人の中より天子の位に登り給ふ、文王は此寶を保合し給ひて天帝の左右にまします、董永は此寶を守りて、天の織女を妻となし、吳二は此寶を守りて、宿惡の天刑をまぬがれたり、古來靈驗語り盡し難し能く信仰して受用すべき事なり。

新字:然る故に此宝を能く守れば、天子は永く四海の富を保ち、諸侯は永く一国の栄華を受け、卿太夫は其家を興し、士は其名を顕はし位を上り、庶人は財穀を積み貯へて其楽をたのしめり、此宝を棄てては人間の道立ず人間の道立ざる而已ならず、天地の道も立ず、天地の道立ざる而已ならず、太虚の神化も行はれず、太虚三才宇宙鬼神造化生死悉く此宝にて包括するなり、此宝を求め学ぶを儒者の学問と云なり、生れながらにして保合し玉ふを聖人と云ふ、学問に因て保合し能く守り行ふを賢人と云なり、孔子万世の暗を照さん為めに此宝を求め学ぶ鏡に孝経を造り給ふと雖秦の代よりこのかた二千余年の間、十分に学び得たる人稀なり今大明の代に至りて、能く知り能く守る人多し、大舜は此宝を保合し給ひて、庶人の中より天子の位に登り給ふ、文王は此宝を保合し給ひて天帝の左右にまします、董永は此宝を守りて、天の織女を妻となし、呉二は此宝を守りて、宿悪の天刑をまぬがれたり、古来霊験語り尽し難し能く信仰して受用すべき事なり。

書き下し

然る故に此宝を能く守れば、天子は永く四海の富を保ち、諸侯は永く一国の栄華を受け、卿太夫は其家を興し、士は其名を顕はし位を上り、庶人は財穀を積み貯へて其楽をたのしめり、此宝を棄てては人間の道立ず人間の道立ざる而已ならず、天地の道も立ず、天地の道立ざる而已ならず、太虚の神化も行はれず、太虚三才宇宙鬼神造化生死悉く此宝にて包括するなり、此宝を求め学ぶを儒者の学問と云なり、生れながらにして保合し玉ふを聖人と云ふ、学問に因て保合し能く守り行ふを賢人と云なり、孔子万世の暗を照さん為めに此宝を求め学ぶ鏡に孝経を造り給ふと雖秦の代よりこのかた二千余年の間、十分に学び得たる人稀なり今大明の代に至りて、能く知り能く守る人多し、大舜は此宝を保合し給ひて、庶人の中より天子の位に登り給ふ、文王は此宝を保合し給ひて天帝の左右にまします、董永は此宝を守りて、天の織女を妻となし、呉二は此宝を守りて、宿悪の天刑をまぬがれたり、古来霊験語り尽し難し能く信仰して受用すべき事なり。

現代語訳

それゆえこの宝をよく守れば、天子は永く四海の富を保ち、諸侯は永く一国の栄華を受け、卿大夫はその家を興し、士はその名を顕し位を上げ、庶人は財や穀物を積み貯えてその楽しみを楽しむ。この宝を捨てては人間の道が立たない。人間の道が立たないばかりでなく、天地の道も立たない。天地の道が立たないばかりでなく、太虚の神妙な造化も行われない。太虚・三才・宇宙・鬼神・造化・生死はことごとくこの宝に包み込まれている。この宝を求め学ぶことを儒者の学問というのである。生まれながらにこれを保ち合わせているのを聖人といい、学問によって保ち合わせ、よく守り行うのを賢人という。孔子は万世の闇を照らすために、この宝を求め学ぶ手本として『孝経』を作ったが、秦の代からこのかた二千余年の間、十分に学び得た人はまれである。今、大明の代に至って、よく知りよく守る人が多い。大舜はこの宝を保って庶人の中から天子の位に登り、文王はこの宝を保って天帝の左右にいます。董永はこの宝を守って天の織女を妻とし、呉二はこの宝を守って宿業の天罰を免れた。古来の霊験は語り尽くせない。よく信じ仰いで実践すべきことである。

解説

宝を守る者は身分に応じて栄え、捨てれば人の道も天地の道も立たないと説く段である。藤樹は学問の目的を、この宝を求め学ぶことと定義し、知識の量ではなく徳の体得を学問の本質とする。「大明の代に至って、よく知りよく守る人が多い」とあるのは、明代の孝経尊信の動きを念頭に置いたものと解されている。董永や呉二は孝子説話の人物で、孝の霊験を示す例として挙げられる。霊験譚を交えた語り口は、庶民にも分かる形で道を伝えようとする工夫である。役職や立場が違っても守るべき根本は同じだという考え方は、組織のどの階層にも当てはまる。

この章句が説くこと

孝学問聖人賢人孝経太虚

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