日本伝治乱要決 / 應亂卷・虚実の転換を見て潮合をつかむ
虛實第廿二凡虛實は轉環して暫も止まらず、明暗共にまぬかるゝ事なし、明將はつねに實にして時として虛いたる、暗將は常に虛にして時として實至る、故に明將は戰てつねに勝つ、暗將は戰て常に敗す、虛實實虛、虛々實々、勝負に眞眼を開かざれば、決得する事あるべからず、潮合第廿三虛實轉環して須臾に變ずるといへども、心を用てこれを見る時は瞭然としてよく見得なす、しかれども虛の實となり、實の虛となる、境幽微にして見べからず、見るといへども應ずる事あたはざれば其業をなす事なし、見て其圖に發す、是を潮合をしるといふ、百戰百勝も潮合の外に出る事なし、勝やすきに勝て天下に功を立、これこゝに達するによれるものなり、神勢第廿四不測にして能通る、是を神と云、其鋒先さへぎり止むべからざる、是を勢と云、心敵の骨髓にとゞき氣三軍を呑む、これを神勢と云ふ、勝敗を未萌に鑑得するときは神勢現ず、神勢を以て對戰する時は萬敵抗衡なす事あたわず、至る所威惠に服す、略地第廿五征伐の位を以て敵地を掠畧す、勢を以てせまるべからず、人情を安んじ、其地を全治て、而後にまた進む、敵地を得るの始、其制度正しくして人民生をなすに安きときは新民服歸す、進て至る所道をひらき糧を獻じて爭て來降す、正兵畧地の大事明らかに徹得すべし、
新字:虚実第廿二凡虚実は転環して暫も止まらず、明暗共にまぬかるゝ事なし、明将はつねに実にして時として虚いたる、暗将は常に虚にして時として実至る、故に明将は戦てつねに勝つ、暗将は戦て常に敗す、虚実実虚、虚々実々、勝負に真眼を開かざれば、決得する事あるべからず、潮合第廿三虚実転環して須臾に変ずるといへども、心を用てこれを見る時は瞭然としてよく見得なす、しかれども虚の実となり、実の虚となる、境幽微にして見べからず、見るといへども応ずる事あたはざれば其業をなす事なし、見て其図に発す、是を潮合をしるといふ、百戦百勝も潮合の外に出る事なし、勝やすきに勝て天下に功を立、これこゝに達するによれるものなり、神勢第廿四不測にして能通る、是を神と云、其鋒先さへぎり止むべからざる、是を勢と云、心敵の骨髄にとゞき気三軍を呑む、これを神勢と云ふ、勝敗を未萌に鑑得するときは神勢現ず、神勢を以て対戦する時は万敵抗衡なす事あたわず、至る所威恵に服す、略地第廿五征伐の位を以て敵地を掠略す、勢を以てせまるべからず、人情を安んじ、其地を全治て、而後にまた進む、敵地を得るの始、其制度正しくして人民生をなすに安きときは新民服帰す、進て至る所道をひらき糧を献じて争て来降す、正兵略地の大事明らかに徹得すべし、
書き下し
虛實第廿二凡虛實は轉環して暫も止まらず、明暗共にまぬかるゝ事なし、明將はつねに實にして時として虛いたる、暗將は常に虛にして時として實至る、故に明將は戰てつねに勝つ、暗將は戰て常に敗す、虛實實虛、虛々實々、勝負に眞眼を開かざれば、決得する事あるべからず、潮合第廿三虛實轉環して須臾に變ずるといへども、心を用てこれを見る時は瞭然としてよく見得なす、しかれども虛の實となり、實の虛となる、境幽微にして見べからず、見るといへども應ずる事あたはざれば其業をなす事なし、見て其圖に發す、是を潮合をしるといふ、百戰百勝も潮合の外に出る事なし、勝やすきに勝て天下に功を立、これこゝに達するによれるものなり、神勢第廿四不測にして能通る、是を神と云、其鋒先さへぎり止むべからざる、是を勢と云、心敵の骨髓にとゞき氣三軍を呑む、これを神勢と云ふ、勝敗を未萌に鑑得するときは神勢現ず、神勢を以て對戰する時は萬敵抗衡なす事あたわず、至る所威惠に服す、略地第廿五征伐の位を以て敵地を掠畧す、勢を以てせまるべからず、人情を安んじ、其地を全治て、而後にまた進む、敵地を得るの始、其制度正しくして人民生をなすに安きときは新民服歸す、進て至る所道をひらき糧を獻じて爭て來降す、正兵畧地の大事明らかに徹得すべし、
現代語訳
虚実第廿二。およそ虚実は転がり巡って暫くも止まらず、明るい者も暗い者もともに逃れることがありません。明将は常に実で、時として虚が至ります。暗い将は常に虚で、時として実が至ります。ゆえに明将は戦えば常に勝ち、暗い将は戦えば常に敗れます。虚実・実虚・虚々・実々と変わるのを、勝負に真の眼を開かなければ会得することはできません。潮合第廿三。虚実は転がり巡ってわずかな間に変わるといっても、心を用いてこれを見る時は、はっきりと見て取ることができます。しかし虚が実となり、実が虚となる境は微かで見えがたいものです。見ても応じることができなければ、その業をなすことはありません。見てその図に発する、これを潮合を知るといいます。百戦百勝も潮合の外には出ません。勝ちやすいところで勝って天下に功を立てたのは、ここに達していたことによるのです。神勢第廿四。測りがたくてよく通る、これを神といいます。その鋒先が遮り止めることができない、これを勢といいます。心が敵の骨髄に届き、気が全軍を呑む、これを神勢といいます。勝敗を未だ萌さないうちに見抜く時は、神勢が現れます。神勢をもって戦う時は、万の敵も対抗することができません。至るところ威と恵みに服します。略地第廿五。征伐の位をもって敵地を掠め取ります。勢いをもって迫ってはなりません。人情を安らかにし、その地を全く治めて、その後にまた進みます。敵地を得た初めに、その制度が正しく人民が生活しやすい時は、新しい民は服して帰します。進んで至るところで道を開き、糧を献上して争って降ります。正兵が地を取る大事を、明らかに会得すべきです。
解説

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『呻吟語』外篇・治道・其の乘ずる所を得ると人の乘ずる所と為ると精を以て雜に乘じ、備を以て疏に乘じ、勇を以て怯に乘じ、智を以て愚に乘じ、餘り有るを以て足らざるに乘じ、意有るを以て意あらざるに乘じ、決を以て二三に乘じ、合德を以て離心に乘じ、銳を以て疲に乘じ、慎を以て怠に乘ぜば、則ち多寡強弱は論ずる所に非ず。故に戰の勝負は他無し、其の乘ずる所を得ると人の乘ずる所と為ると、其の得失は啻だに百のみならず。實は精なるも、之に示すに雜を以てし、實は備はるも、之に示すに疏を以てし、實は勇なるも、之に示すに怯を以てし、實は智なるも、之に示すに愚を以てし、實は餘り有るも、之に示すに足らざるを以てし、實は意有るも、之に示すに意あらざるを以てし、實は決有るも、之に示すに二三を以てし、實は合德なるも、之に示すに離心を以てし、實は銳なるも、之に示すに疲を以てし、實は慎なるも、之に示すに怠を以てせば、則ち多寡強弱も亦た論ずる所に非ず。故に之に乘ずるの可否は他無し、其の示す所を知ると、其の示す所無きを知ると、其の得失も亦た啻だに百のみならず。故に其の示す所を藏さざるは、凶なり。誤りて示す所に中たるは、凶なり。此れ將家の審らかにするを務むる所なり。
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