日本伝治乱要決 / 自立卷・下人と開諫で人の智を集める
下人第十一千慮の一失は智者まぬかれず、千慮の一得は愚者おのづからこれあり、國を治るは人を治るにあり、人を得るは人の長を知るに有り、長を知るはよく人に下るにあり、野人の言國の經となり、婦人の語萬世の則となる、能ある者は言をとらずして其能をとるべし、よく言者は其證を正さずして其語を取るべし、君上其位に在てよく人に下る時は四海の智を以て我智となす、大智このうへに超すものなし、開諫第十二木は規矩によつて正し、人は諫諍によつて其位を失はず、一人の耳を以て天下の事を聞く、諫にしく物ある事なし、人主諫の善なる事を知ると雖、其諫をきく事あたわず、故に諫を欲すれども諫むる者なし、其道を開かざるによつてなり、撰んで善言を聞んとす、天下に求れども得る事なし、善言をゑらぶによつて不善言を凶む事昭々たり、故に人臣思て言を發する事あたはず、凡諫の道を開かんと欲する時は廣く人の言を納るゝにあり、己れを空してこれをきく、雜諫を厭はずしてこれを納るゝ時は、不期して正諫至る、正諫を納れてその非を改むる時は、天下自然に服歸す、人主國を保つの藥石、何ぞこれにしかんや、
新字:下人第十一千慮の一失は智者まぬかれず、千慮の一得は愚者おのづからこれあり、国を治るは人を治るにあり、人を得るは人の長を知るに有り、長を知るはよく人に下るにあり、野人の言国の経となり、婦人の語万世の則となる、能ある者は言をとらずして其能をとるべし、よく言者は其証を正さずして其語を取るべし、君上其位に在てよく人に下る時は四海の智を以て我智となす、大智このうへに超すものなし、開諫第十二木は規矩によつて正し、人は諫諍によつて其位を失はず、一人の耳を以て天下の事を聞く、諫にしく物ある事なし、人主諫の善なる事を知ると雖、其諫をきく事あたわず、故に諫を欲すれども諫むる者なし、其道を開かざるによつてなり、撰んで善言を聞んとす、天下に求れども得る事なし、善言をゑらぶによつて不善言を凶む事昭々たり、故に人臣思て言を発する事あたはず、凡諫の道を開かんと欲する時は広く人の言を納るゝにあり、己れを空してこれをきく、雑諫を厭はずしてこれを納るゝ時は、不期して正諫至る、正諫を納れてその非を改むる時は、天下自然に服帰す、人主国を保つの薬石、何ぞこれにしかんや、
書き下し
下人第十一千慮の一失は智者まぬかれず、千慮の一得は愚者おのづからこれあり、國を治るは人を治るにあり、人を得るは人の長を知るに有り、長を知るはよく人に下るにあり、野人の言國の經となり、婦人の語萬世の則となる、能ある者は言をとらずして其能をとるべし、よく言者は其證を正さずして其語を取るべし、君上其位に在てよく人に下る時は四海の智を以て我智となす、大智このうへに超すものなし、開諫第十二木は規矩によつて正し、人は諫諍によつて其位を失はず、一人の耳を以て天下の事を聞く、諫にしく物ある事なし、人主諫の善なる事を知ると雖、其諫をきく事あたわず、故に諫を欲すれども諫むる者なし、其道を開かざるによつてなり、撰んで善言を聞んとす、天下に求れども得る事なし、善言をゑらぶによつて不善言を凶む事昭々たり、故に人臣思て言を發する事あたはず、凡諫の道を開かんと欲する時は廣く人の言を納るゝにあり、己れを空してこれをきく、雜諫を厭はずしてこれを納るゝ時は、不期して正諫至る、正諫を納れてその非を改むる時は、天下自然に服歸す、人主國を保つの藥石、何ぞこれにしかんや、
現代語訳
下人第十一 千に一つの失敗は智者も免れず、千に一つの得は愚者にもおのずからあります。国を治めるのは人を治めることにあります。人を得るのは人の長所を知ることにあります。長所を知るのはよく人にへりくだることにあります。野人(民間の人)の言葉が国の経となり、婦人の語が万世の則となることがあります。能のある者は、その言葉を取らずにその能を取るべきです。よく言う者は、その証を確かめずにその語を取るべきです。君上がその位にありながらよく人にへりくだるときは、四海(天下)の智をもって我が智とします。大智はこれより上のものはありません。開諫第十二 木は規矩(定規とコンパス)によって正しくなり、人は諫諍(いさめること)によってその位を失いません。一人の耳で天下の事を聞くには、諫めにまさるものはありません。君主は諫めの善いことを知っていても、その諫めを聞くことができません。ゆえに諫めを欲しても諫める者がいません。その道を開かないからです。選んで善言を聞こうとします。天下に求めても得られません。善言を選ぶことで不善言を凶(悪)とすることが明らかになるからです。ゆえに臣下は思ったことを言うことができません。およそ諫めの道を開こうとするときは、広く人の言葉を受け入れることです。己を空しくしてこれを聞きます。雑多な諫めを厭わずに受け入れるときは、期せずして正しい諫めが至ります。正しい諫めを受け入れてその非を改めるときは、天下は自然に服し帰します。君主が国を保つ薬石(薬と石針)に、これにまさるものがありましょうか。
解説

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『文武訓』文訓上之末一義理の学、文字の学ある人、又文学なくとも、一材一芸に長ずる人にあはば、わが才学と芸能にほこらず、みづからは黙して言はず、只その人の知れることを尋ねて、其言語をつつしんで聞くべし。必ず益あるべし。わが智を先だてて才学にほこり、わが少し知れることをよく知りがほにかたれば、われに益なし。みづからは、才智をあらはさんと思へど、識者のいやしむ所なり。学芸ある人のいへることを聞きてこそ、益あるべけれ。人に言はせずして、我ひとりいはば益あるべからず。又芸ある人にかぎらず、其人の居る処の国土の名所旧跡土産などのこと、又其人の家業のことに附きても、尋ね問ひてよく聴かば、必ず益あるべし。凡人に問ふは智を求むる道なり。