文武訓 / 文訓上之末
一義理の學、文字の學ある人、又文學なくとも、一材一藝に長ずる人にあはば、わが才學と藝能にほこらず、みづからは默して言はず、只その人の知れることを尋ねて、其言語をつゝしんで聞くべし。必ず益あるべし。わが智を先だてて才學にほこり、わが少し知れることをよく知りがほにかたれば、われに益なし。みづからは、才智をあらはさんと思へど、識者のいやしむ所なり。學藝ある人のいへることを聞きてこそ、益あるべけれ。人に言はせずして、我ひとりいはば益あるべからず。又藝ある人にかぎらず、其人の居る處の國土の名所舊跡土產などのこと、又其人の家業のことに附きても、尋ね問ひてよく聽かば、必ず益あるべし。凡人に問ふは智を求むる道なり。
新字:一義理の学、文字の学ある人、又文学なくとも、一材一芸に長ずる人にあはば、わが才学と芸能にほこらず、みづからは黙して言はず、只その人の知れることを尋ねて、其言語をつゝしんで聞くべし。必ず益あるべし。わが智を先だてて才学にほこり、わが少し知れることをよく知りがほにかたれば、われに益なし。みづからは、才智をあらはさんと思へど、識者のいやしむ所なり。学芸ある人のいへることを聞きてこそ、益あるべけれ。人に言はせずして、我ひとりいはば益あるべからず。又芸ある人にかぎらず、其人の居る処の国土の名所旧跡土産などのこと、又其人の家業のことに附きても、尋ね問ひてよく聴かば、必ず益あるべし。凡人に問ふは智を求むる道なり。
書き下し
一義理の学、文字の学ある人、又文学なくとも、一材一芸に長ずる人にあはば、わが才学と芸能にほこらず、みづからは黙して言はず、只その人の知れることを尋ねて、其言語をつつしんで聞くべし。必ず益あるべし。わが智を先だてて才学にほこり、わが少し知れることをよく知りがほにかたれば、われに益なし。みづからは、才智をあらはさんと思へど、識者のいやしむ所なり。学芸ある人のいへることを聞きてこそ、益あるべけれ。人に言はせずして、我ひとりいはば益あるべからず。又芸ある人にかぎらず、其人の居る処の国土の名所旧跡土産などのこと、又其人の家業のことに附きても、尋ね問ひてよく聴かば、必ず益あるべし。凡人に問ふは智を求むる道なり。
現代語訳
義理の学問や文字の学問のある人、また学問はなくても、一つの才や一芸に長じた人に会ったなら、自分の才学や芸能を誇らず、自分は黙って言わず、ただその人の知っていることを尋ねて、その言葉を慎んで聞きなさい。必ず益があるでしょう。自分の知恵を先に立てて才学を誇り、自分が少し知っていることをよく知っている顔で語れば、自分には益がありません。自分では才知をあらわそうと思っても、識者が卑しむところです。学問や芸のある人の言うことを聞いてこそ、益があるのです。人に言わせずに自分ひとりが言っていては、益はありません。また芸のある人に限らず、その人の住む土地の名所・旧跡・土産物などのこと、またその人の家業のことについても、尋ね問うてよく聞けば、必ず益があるでしょう。およそ人に問うことは、知恵を求める道です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『文武訓』文訓上之末一何事も、知らぬさましたるぞよき。みづからはわたくしに引かれて、よく知れりと思へど、いまだよく知らぬこと多ければ、わが心にゆるしがたし。よく知らで、知れりとするかほつきなるもにくし。子路の、知らざるを知れりとするは、いつはりて知れりとするにはあらず、わが心にはまことに知れりとおもへど、わが気あらく、心くはしからずして、あやまりてすでに知れりと思へるなり。ひとへにおもへば、まだ知らぬことを、すでによく知れりと思ひあやまること多し。浦の浜木綿の百重なることを思ふべし。
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論語・八佾篇或るひと禘を問う。子曰く、『知らざるなり。その説を知る者の天下に於けるや、其れ諸を斯に示すが如きか。』と掌を指す。
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『幽夢影』巻上・下の下なり人は聖賢に非ず、安んぞ能く知らざる所無からん。祇だ其の一を知り、惟だ其の一に止まらざるを恐れ、復た其の二を知らんことを求むる者は、上なり。止だ其の一を知り、人の言ふに因りて、始めて其の二有るを知る者は、次なり。止だ其の一を知り、人其の二有りと言ふも之を信ずる莫き者は、又其の次なり。止だ其の一を知り、人の其の二有りと言ふを惡む者は、斯れ下の下なり。
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『酔古堂剣掃』集醒・寸積銖累して自ら富翁と成る能く善言を受くるは、市人の利を求むるが如し、寸積銖累して、自ら富翁と成る。
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『初学訓』巻之三一百行万善、皆知あるより行はれ、愚なるよりすたる。この故に、知は人身の大宝なり、貴ぶべし。人たる者は、高きもいやしきも、若きも老いたるも、只、知を求むべし。知を求むるの術はいかんぞや、学問するに如くはなし。学問にあらざれば、知求むべきやうなし。
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『大和俗訓』巻之二・為学下一およそ人の不孝不忠、もろもろの悪を行ひ、慾を恣にし、身をほろぼし家をほろぼすに至るは、何にかよれるや。知なければなり。又善を行ひて、家をおこし、身をたもち、ほまれを得るは、何の故ぞや。知あればなり。知あればよく善悪を知る。善のなすべき事を知りて行ひ、悪のなすまじき事を知りて行はず。此故に知は身の内の大なる宝なり。学者道に志さば、知を求むるを第一とすべし。知をひらく事は、学問の功にあらずんば成りがたし。
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