日本伝治乱要決 / 治基卷・治基巻・賦斂第十二と約用第十三
賦斂第十二國に動靜あり、共に人民を帥て立つ、靜なる時に當つて人をして生產をたもたしめ、動くときに望んて人をして途をうしなわしめざるは、賦斂の正しきによる、其國の兵數によつて糧食兵具爰に全して變に動ぜざるは、軍役に心を用ればなり、其國の民數によつて五穀の納る所、運上の數取て國用をなすを規とし、民餘りを受て生を養ふを度となして、諸人をよく計るときは、動靜によつて其常を失ふ事あるべからず、約用第十三歲に豐凶あり人事に災祥あり、人民を集めて治をなす、常に有餘あらざれば變に臨んで人を救ふ事あたわず、事は多端なり、心を用ひざる時は國用つねにだも足らず、況んや變に處するをや、人を計つて出るとをなす、諸用を合せて其有餘を知るべし、なすべき事をなさゞるあり、これを鄙吝といふ、何ぞ國を保つに足らん、なすまじきをなす事あり、是を驕奢といふ、何ぞ人民を育して饑渴を救ふにたらむ、なすべきをなし、なすまじきをなさゞる時は、不期して國家に有餘あり、經濟の深祕なり、
新字:賦斂第十二国に動静あり、共に人民を帥て立つ、静なる時に当つて人をして生産をたもたしめ、動くときに望んて人をして途をうしなわしめざるは、賦斂の正しきによる、其国の兵数によつて糧食兵具爰に全して変に動ぜざるは、軍役に心を用ればなり、其国の民数によつて五穀の納る所、運上の数取て国用をなすを規とし、民余りを受て生を養ふを度となして、諸人をよく計るときは、動静によつて其常を失ふ事あるべからず、約用第十三歳に豊凶あり人事に災祥あり、人民を集めて治をなす、常に有余あらざれば変に臨んで人を救ふ事あたわず、事は多端なり、心を用ひざる時は国用つねにだも足らず、況んや変に処するをや、人を計つて出るとをなす、諸用を合せて其有余を知るべし、なすべき事をなさゞるあり、これを鄙吝といふ、何ぞ国を保つに足らん、なすまじきをなす事あり、是を驕奢といふ、何ぞ人民を育して饑渇を救ふにたらむ、なすべきをなし、なすまじきをなさゞる時は、不期して国家に有余あり、経済の深秘なり、
書き下し
賦斂第十二國に動靜あり、共に人民を帥て立つ、靜なる時に當つて人をして生產をたもたしめ、動くときに望んて人をして途をうしなわしめざるは、賦斂の正しきによる、其國の兵數によつて糧食兵具爰に全して變に動ぜざるは、軍役に心を用ればなり、其國の民數によつて五穀の納る所、運上の數取て國用をなすを規とし、民餘りを受て生を養ふを度となして、諸人をよく計るときは、動靜によつて其常を失ふ事あるべからず、約用第十三歲に豐凶あり人事に災祥あり、人民を集めて治をなす、常に有餘あらざれば變に臨んで人を救ふ事あたわず、事は多端なり、心を用ひざる時は國用つねにだも足らず、況んや變に處するをや、人を計つて出るとをなす、諸用を合せて其有餘を知るべし、なすべき事をなさゞるあり、これを鄙吝といふ、何ぞ國を保つに足らん、なすまじきをなす事あり、是を驕奢といふ、何ぞ人民を育して饑渴を救ふにたらむ、なすべきをなし、なすまじきをなさゞる時は、不期して國家に有餘あり、經濟の深祕なり、
現代語訳
賦斂第十二。国には動と静があり、どちらも人民を率いて立ちます。静かなときには人に生産を保たせ、動くときには人に道を失わせないのは、賦斂(税の取り立て)が正しいことによります。その国の兵数によって糧食と兵具がここに備わり、変事にも動じないのは、軍役に心を用いるからです。その国の民数によって五穀の納まるところ、運上(上納)の数を取って国の用とすることを規とし、民が余りを受けて生を養うことを度とし、諸人をよく計るときは、動静によってその常を失うことはありません。約用第十三。年には豊凶があり、人事には災いと幸いがあります。人民を集めて治めをなすのに、常に余りがなければ、変事に臨んで人を救うことができません。事は多端です。心を用いないときは、国の用が常にさえ足りません。まして変事に処することはなおさらです。人を計って出すことをします。諸々の用を合わせてその余りを知るべきです。なすべきことをしない者がいます。これを鄙吝(けち)といいます。どうして国を保つに足りましょうか。なすまじきことをする者がいます。これを驕奢(おごり)といいます。どうして人民を育てて飢えと渇きを救うに足りましょうか。なすべきをなし、なすまじきをしないときは、期せずして国家に余りがあります。これが経済の深い秘密です。
解説

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『新論』國體下今夫れ天下米穀の賤くして貨幣の乏しきを患ふ。米穀乃ち賤きに非ざるなり、貨幣乃ち乏しきに非ざるなり、而して百物の甚だ貴きなり。設し斗米の価銀五銭にして、一衣裘も亦五銭ならしめば、則ち斗米以て一衣裘に易ふべし。今木綿の裘と雖も、六七斗を鬻ぐに非ざれば則ち其の直を償ふ能はず。是れ衣裘の貴きにして、穀の賤きに非ざるなり。穀なる者は取りて以て腹に充つるのみ。之を銷すこと限り有り。百物は新を競ひ奇を闘はせ、愈々出でて愈々窮まり無し。乃ち一婦の首飾にして中農一家の産に当たるに至る。銷すこと限り有る者を以てして、愈々出でて窮まり無き者を逐ふ。百物の皆貴き所以にして、米穀の独り賤き所以なり。
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『新論』國體下夫れ天下の米穀未だ嘗て多からざるなり。而して甚だ多きが如き者は、其の勢之をして然らしむるのみ。凡そ物散じて之を各所に蔵すれば、其の数多しと雖も、未だ其の甚だ多きを見ること有らず。聚めて之を一所に陳ぬれば、寡しと雖も亦猶多きがごとし。是れ自然の勢なり。故に一石の米を家に蔵するは、未だ以て多しと為すに足らざるも、万家にして之を鬻ぎ、万石を市に陳ぬれば、未だ嘗て視て以て夥しと為さずんばあらず。而して武士都城に聚処し、終歳の俸を尽くして、以て口腹に奉じ婦女を悦ばしめ、甲兵を繕ひ徒卒を養ふを得ず。故に米穀家に蔵せず、挙げて之を市に鬻ぐ。農民困乏して奢惰なるも、亦歳収を挙げて之を鬻ぐ。鬻ぐ所愈々多ければ、則ち米価愈々賤し。賤しければ則ち其の鬻ぐこと多からざるを得ず。之を鬻ぐこと愈々多くして、直を得ること旧に益さず。是を以て民流亡して地余り有り。地余り有りて租賦減ぜず。其の税其の鬻、一家の産を傾くと雖も、猶且つ足らず。故に之を鬻ぐこと日に多くして、天下の穀日に耗る。天下の穀日に耗りて、都会の穀日に盈つ。都会の盈つるを見れば、則ち天下の虚知るべきなり。
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『新論』國體下且つ夫れ都会も亦多く無用の穀を儲ふる能はず。故に都会の穀と雖も、亦以て都会の人を食はしめて稍余り有るに過ぎざるのみ。其の実は甚だしくは多からざるなり。凡そ盈縮の数、其の実は甚だしくは相遠からずして、其の勢は相霄壌たるが如き者有り。之を啖ひて飽く者に譬ふ。既に腹に充つれば、稍一分を多くすれば、則ち甚だ余り有るが如し。未だ飽くに及ばざれば、一分を少なくすれば、則ち大いに足らざるが如し。是れ其の過不及の差為ること眇少なるのみ。然れども其の足らざる者を取りて、之を余り有る者に比すれば、盈虚の相去ること、大いに相懸たるが如き者は勢なり。故に曰く、天下の穀未だ嘗て多からず、而して都会の穀も亦未だ甚だしくは多からざるなりと。
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『新論』國體下古者百事簡易にして、四民勤動し、其の営求する所の者は、功を通じ事を易ふるに過ぎず。之を生ずること甚だ広くして、用途甚だ狭し。朝廷漸く奢靡を尚ぶに及び、国家の用を貶して、以て婦女の玩好に供し、異化の徒横肆して、天下の財を傾けて、以て堂宇を造り、天下の穀を糜して、以て浮冗を食はしむ。藤氏権を専らにして、権勢の家、私儲を営み私人を蓄へ、荘園天下に遍く、其の正税を出だして以て王事に供する者幾ばくも無し。而して権勢の私人、所謂守護地頭なる者、又財穀を私儲して富厚世を累ね、国郡に拠有して、天下の富遂に武人に移る。然れども兵なる者は民社を鎮むる所以なり。天下の武士各々私卒を養ふ、亦未だ冗食と為さず。故に古者天下乱ると雖も、而も未だ甚だしくは貧に苦しまざるなり。今天下治平にして、上下皇皇として、唯だ貧を是れ患ふる者は何ぞや。天下の財を理むること其の道を得ざればなり。
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『新論』國體下夫れ武人土を離るれば、其の勢多く卒を養ふを得ず。故に間民を市井に雇ひて、以て騶従に充て工役に供す。間民都城に充斥し、緩急用ゐるべからずして、坐して粱肉に飽く。其の冗為るや大なり。天下の仏寺殆ど五十万、僧尼及び奴隷を通計すれば、其の幾百万なるを知らず。(唐の傅奕高祖に上書して言ふ、僧尼をして匹配せしめば、即ち十余万戸と云云。武宗仏寺を廃し、其の上都及び東都は二寺を留め、節鎮は各々一寺を留め、寺四千六百余区、招提蘭若四万余区を毀ち、僧尼の帰俗する者二十六万五百人、良田数千万頃、奴婢十五万人を収む。之に拠れば則ち唐国の土地の大にして、其の仏寺の多き、神州の十分の一に及ばず。然るに時人尚ほ以て夥しと為す。則ち神州の仏寺も亦盛んなりと謂ふべし。)
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『新論』國體下凡そ天下の物偏重有れば、則ち其の軽からざる者も亦猶軽きがごとし。故に百物の偏重にして、貨幣の偏軽、百物の偏貴にして、米穀の偏賤なる、是れ其の勢の尤も見易き者なり。而して武士都会に聚処し、終歳用ゐる所、一毫と雖も市に資らざるを得ず。愈々賤き穀を以て、愈々軽き金に易へ、愈々軽き金を以て、愈々貴き物を償ふ。其の費固より給せず。而して其の養ふ所の倍卒も、亦皆奢侈に習ひ、養ふに薄俸を以てすべからず。陪卒を罷めて歳々奴隷を買ふ。(俚語に所謂年季なる者是れなり。)奴隷も亦奢り、亦多く之を畜ふを得ず。故に時に臨みて之を市井に傭ふ。市井も亦奢り、雇銭日に貴く、亦其の給し難きを患ふ。而して其の居家の冗費、妻妾の奉、玩好の用、日に一日より厚く、終歳の入、出づる所を償はず。富人に就きて乞貸し、習ひて以て俗を成す。邦を有ち土を有つと雖も、亦富民に仰給せざる莫し。豪姦大猾、貨財の権を操り、王公を股掌の上に愚弄す。是に於てか天下の富遂に市人に帰す。