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名将言行録 / 『名将言行録』後藤基次 伏兵を見破られた話

○此役、城兵千波を燒きける時、基次見て、備前勢必ず付慕ふべし、若き人々待伏して功名あれと言ければ、基次が詞違はじとて、各々待伏しける所に、敵付來らず、後藤が功名だてと嘲りけり、基次積りも時々は違ふことあるものなり、必ず備前勢の付慕ふべきに其儀なきは不審なり、花房助兵衞職之が未だ生存へて居るならんと言へり。此時池田家にて戸川肥後守達安を始めとして、烟紛れに慕はんと言ひしに、職之聞て、城中に後藤と曰ふ功者あり、必ず兵を伏せ置きたるべしと制して付しめず、烟消えて見れば、職之が言ひし如く、果して兵を伏せ待掛け居たり。和平の後、基次遠安が弟彌左衞門と談話の時、千波の事に及び、付慕はざるは如何にと問へば、職之が制止しける由を言たり。兩人の計りしこと、更に違はざりければ、敵味方とも聞く人舌を振ひけるとぞ。 ○十二月三日、基次本丸に至り、此兩日敵茶磨山と岡山との間を保侶武者急はしげに、彼方此方へ驅廻り申すは、如何樣一兩日中に總攻致すと相見ゆる間、御用意之あるべくと申ける。夫より持口々々へ加勢等あり、果して四日の夜より攻寄せたり。

新字:○此役、城兵千波を焼きける時、基次見て、備前勢必ず付慕ふべし、若き人々待伏して功名あれと言ければ、基次が詞違はじとて、各々待伏しける所に、敵付来らず、後藤が功名だてと嘲りけり、基次積りも時々は違ふことあるものなり、必ず備前勢の付慕ふべきに其儀なきは不審なり、花房助兵衛職之が未だ生存へて居るならんと言へり。此時池田家にて戸川肥後守達安を始めとして、烟紛れに慕はんと言ひしに、職之聞て、城中に後藤と曰ふ功者あり、必ず兵を伏せ置きたるべしと制して付しめず、烟消えて見れば、職之が言ひし如く、果して兵を伏せ待掛け居たり。和平の後、基次遠安が弟弥左衛門と談話の時、千波の事に及び、付慕はざるは如何にと問へば、職之が制止しける由を言たり。両人の計りしこと、更に違はざりければ、敵味方とも聞く人舌を振ひけるとぞ。 ○十二月三日、基次本丸に至り、此両日敵茶磨山と岡山との間を保侶武者急はしげに、彼方此方へ駆廻り申すは、如何様一両日中に総攻致すと相見ゆる間、御用意之あるべくと申ける。夫より持口々々へ加勢等あり、果して四日の夜より攻寄せたり。

書き下し

○此役、城兵千波を燒きける時、基次見て、備前勢必ず付慕ふべし、若き人々待伏して功名あれと言ければ、基次が詞違はじとて、各々待伏しける所に、敵付來らず、後藤が功名だてと嘲りけり、基次積りも時々は違ふことあるものなり、必ず備前勢の付慕ふべきに其儀なきは不審なり、花房助兵衞職之が未だ生存へて居るならんと言へり。此時池田家にて戸川肥後守達安を始めとして、烟紛れに慕はんと言ひしに、職之聞て、城中に後藤と曰ふ功者あり、必ず兵を伏せ置きたるべしと制して付しめず、烟消えて見れば、職之が言ひし如く、果して兵を伏せ待掛け居たり。和平の後、基次遠安が弟彌左衞門と談話の時、千波の事に及び、付慕はざるは如何にと問へば、職之が制止しける由を言たり。兩人の計りしこと、更に違はざりければ、敵味方とも聞く人舌を振ひけるとぞ。 ○十二月三日、基次本丸に至り、此兩日敵茶磨山と岡山との間を保侶武者急はしげに、彼方此方へ驅廻り申すは、如何樣一兩日中に總攻致すと相見ゆる間、御用意之あるべくと申ける。夫より持口々々へ加勢等あり、果して四日の夜より攻寄せたり。

現代語訳

この大坂の戦で、城兵が千波を焼いた時、基次はこれを見て、備前勢が必ず追いかけて来る、若い人たちは待ち伏せて功名を立てなさいと言いました。基次の言葉に間違いはあるまいと、それぞれ待ち伏せましたが、敵は追ってきませんでした。人々は、後藤の功名だてだと嘲笑しました。基次は、見込みも時には違うことがある、必ず備前勢が追ってくるはずなのにそうならないのは不審だ、花房助兵衛職之がまだ生きているのだろう、と言いました。この時、池田家では戸川肥後守達安をはじめとして、煙に紛れて追おうと言いましたが、職之が聞いて、城中に後藤という功者がいる、必ず兵を伏せているに違いないと制して追わせませんでした。煙が消えて見ると、職之が言ったとおり、はたして兵を伏せて待ち構えていました。和平の後、基次が達安の弟の弥左衛門と談話した時、千波のことに及び、追いかけなかったのはなぜかと問うと、職之が制止したためだと答えました。両人の読みはさらに違わなかったので、敵味方とも聞く人は舌を巻いたということです。 十二月三日、基次は本丸に行き、この二日間、敵が茶臼山と岡山の間を、母衣武者が急ぎがちに、あちらこちらへ駆け回っていますのは、おそらく一両日中に総攻撃をするものと見えます、ご用意あるように、と申しました。それから持ち場へ加勢などがあり、はたして四日の夜から攻め寄せてきました。

解説

互いに相手を読み合う、読みの応酬の話です。基次は敵が追ってくると読んで伏兵を置き、敵の職之は基次がいると見て追わなかった。結果として、両者は何も起こさずに終わります。目立つ成果がないまま終わった読み合いを、後で当人たちが確認して感嘆する点に妙味があります。細部は逸話で確証はありません。仕事でも、起きなかったことの価値は気づかれにくい。そのような地味な備えの価値を見つめ直せる章句です。
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この章句が説くこと

後藤基次読み合い伏兵花房職之備え大坂冬の陣

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