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名将言行録 / 『名将言行録』福島正則 二つに一つの出陣

星野成政の子、福島新右衞門正光の嗣と爲り、市松と稱す。後從三位に敍し、參議兼左衞門太夫に任す。安藝備後兩國四十九萬八千二百石に封ぜられ、廣島城に住す。後罪ありて配流せらる。薙髮して馬齋と號す。寛永元年七月十三日卒す、年六十四。 ○正則清洲二十萬石を領せり。慶長五年、會津の役、家康に從ひ關東に赴くに、大惡日に出陣す。其言に曰く、出て二度歸らずと、之に依りて家臣事の急なるにあらざれば、御出陣今日に限り申まじと諫めければ、正則、我本意實に二度歸ることを欲せず、何にとなれば、我所領少なければ、兵又多からず、徒らに人の尾に付、鬱々として日を送らんよりは、今度關東に於て、武功を拔て大國を賜はるか、然らずんば、剛敵堅陣を擊取り、目を驚かす戰死を遂げん。此二つのもの天運に任せりと言て、打立しが果して軍功他に異なるを以て、安藝、備後、兩國に封ぜられたり。

新字:星野成政の子、福島新右衛門正光の嗣と為り、市松と称す。後従三位に叙し、参議兼左衛門太夫に任す。安芸備後両国四十九万八千二百石に封ぜられ、広島城に住す。後罪ありて配流せらる。薙髪して馬斎と号す。寛永元年七月十三日卒す、年六十四。 ○正則清洲二十万石を領せり。慶長五年、会津の役、家康に従ひ関東に赴くに、大悪日に出陣す。其言に曰く、出て二度帰らずと、之に依りて家臣事の急なるにあらざれば、御出陣今日に限り申まじと諫めければ、正則、我本意実に二度帰ることを欲せず、何にとなれば、我所領少なければ、兵又多からず、徒らに人の尾に付、鬱々として日を送らんよりは、今度関東に於て、武功を抜て大国を賜はるか、然らずんば、剛敵堅陣を撃取り、目を驚かす戦死を遂げん。此二つのもの天運に任せりと言て、打立しが果して軍功他に異なるを以て、安芸、備後、両国に封ぜられたり。

書き下し

星野成政の子、福島新右衞門正光の嗣と爲り、市松と稱す。後從三位に敍し、參議兼左衞門太夫に任す。安藝備後兩國四十九萬八千二百石に封ぜられ、廣島城に住す。後罪ありて配流せらる。薙髮して馬齋と號す。寛永元年七月十三日卒す、年六十四。 ○正則清洲二十萬石を領せり。慶長五年、會津の役、家康に從ひ關東に赴くに、大惡日に出陣す。其言に曰く、出て二度歸らずと、之に依りて家臣事の急なるにあらざれば、御出陣今日に限り申まじと諫めければ、正則、我本意實に二度歸ることを欲せず、何にとなれば、我所領少なければ、兵又多からず、徒らに人の尾に付、鬱々として日を送らんよりは、今度關東に於て、武功を拔て大國を賜はるか、然らずんば、剛敵堅陣を擊取り、目を驚かす戰死を遂げん。此二つのもの天運に任せりと言て、打立しが果して軍功他に異なるを以て、安藝、備後、兩國に封ぜられたり。

現代語訳

星野成政の子で、福島新右衛門正光の跡を継ぎ、市松と称した。のちに従三位に叙され、参議兼左衛門太夫に任じられた。安芸と備後の両国四十九万八千二百石に封ぜられ、広島城に住んだ。のちに罪があって配流された。髪を剃って馬斎と号した。寛永元年七月十三日に没した。年は六十四。 正則は清洲二十万石を領していた。慶長五年、会津の役で家康に従って関東へ赴くとき、大悪日に出陣した。その言葉に、出て二度と帰らない、とあった。このため家臣が、事が急ぐわけでもないのに、ご出陣は今日に限らないでくださいと諫めると、正則は言った。私の本意は実際に二度と帰らないことを望んでいる。なぜなら、私の所領は少なく、兵も多くない。むなしく人の後ろについて、鬱々と日を送るよりは、今度関東で武功を抜きん出て大国を賜るか、そうでなければ、強敵や堅陣を攻め落とし、目を見張るような戦死を遂げたい。この二つは天運に任せる、と言って出発した。はたして軍功が他に抜きん出ていたため、安芸、備後の両国に封ぜられた。

解説

福島正則の略歴と、出陣の日に語ったとされる覚悟の言葉です。石高が小さい立場だからこそ、大きく取るか、潔く散るかの二択に腹を決めたという逸話で、不安を覚悟に変える仕方が見て取れます。結果として安芸・備後を得たのは本文の通りです。現代でも、現状維持のまま鬱々と過ごすより、成果で次のステージを取りに行く姿勢は職場で響きます。ただし命を賭ける言い方は戦国の通念で、同じ覚悟を仕事の中でどんな形に置き換えるかを考えると読みが深まります。
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