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名将言行録 / 『名将言行録』竹中重治 備えを正す腰の低さ

○重治、戰場にて備立我思ふ樣にあらざれば、秀吉の命なくても備を替させけり。或時の合戰に去る大名、家老に向つて、何つも竹中が下知に隨ひ快よからず、此度は受引せずと言ける折節、重治馬に乘り來りけるが、如何思ひけん、二三反此方より、馬より下りて如何にも靜に步み行き、寄て手を突き、備の場所、旗色まで能く候、御感に思召候と謹みて言けろ。彼大名、悅氣に入り御前然ろべき樣にと申す時、重治重ねて秀吉公の思召には、此備の足輕、旗の立て所彼れ是れに置かれ候は丶、彌々然るべくとの御意にて候と言ければ、御尤もの御意なりとて、重治が申しゝ如くに、備を立直しけり。偖重治歸りて後、家老に向て、竹中が下知と思ひながら違變ならざることよ、と大に笑けるとぞ。

新字:○重治、戦場にて備立我思ふ様にあらざれば、秀吉の命なくても備を替させけり。或時の合戦に去る大名、家老に向つて、何つも竹中が下知に随ひ快よからず、此度は受引せずと言ける折節、重治馬に乗り来りけるが、如何思ひけん、二三反此方より、馬より下りて如何にも静に歩み行き、寄て手を突き、備の場所、旗色まで能く候、御感に思召候と謹みて言けろ。彼大名、悦気に入り御前然ろべき様にと申す時、重治重ねて秀吉公の思召には、此備の足軽、旗の立て所彼れ是れに置かれ候は丶、弥々然るべくとの御意にて候と言ければ、御尤もの御意なりとて、重治が申しゝ如くに、備を立直しけり。偖重治帰りて後、家老に向て、竹中が下知と思ひながら違変ならざることよ、と大に笑けるとぞ。

書き下し

○重治、戰場にて備立我思ふ樣にあらざれば、秀吉の命なくても備を替させけり。或時の合戰に去る大名、家老に向つて、何つも竹中が下知に隨ひ快よからず、此度は受引せずと言ける折節、重治馬に乘り來りけるが、如何思ひけん、二三反此方より、馬より下りて如何にも靜に步み行き、寄て手を突き、備の場所、旗色まで能く候、御感に思召候と謹みて言けろ。彼大名、悅氣に入り御前然ろべき樣にと申す時、重治重ねて秀吉公の思召には、此備の足輕、旗の立て所彼れ是れに置かれ候は丶、彌々然るべくとの御意にて候と言ければ、御尤もの御意なりとて、重治が申しゝ如くに、備を立直しけり。偖重治歸りて後、家老に向て、竹中が下知と思ひながら違變ならざることよ、と大に笑けるとぞ。

現代語訳

重治は、戦場で備えの配置が自分の思うようでなければ、秀吉の命令がなくても備えを替えさせた。あるとき合戦で、ある大名が家老に向かって、いつも竹中の下知に従うのは心地よくない、今度は受け入れない、と言っていたとき、重治が馬に乗ってやって来たが、どう思ったのか、二、三町手前から馬を降り、いかにも静かに歩み寄り、手をついて、備えの場所、旗の色までよろしゅうございます、お褒めの思し召しです、と謹んで言った。その大名は気をよくして、御前はしかるべきようにと言った。そのとき重治は重ねて、秀吉公の思し召しでは、この備えの足軽、旗の立てどころなどをあちらこちらに置かれたら、いよいよよろしかろうとの御意でございます、と言った。大名は、もっともな御意と、重治が申したとおりに備えを立て直した。さて重治は帰ったのち、家老に向かって、竹中の下知と思いながら違反しないことよ、と大いに笑ったという。

解説

他の大名が反感を抱いている場面で、重治は馬を降り、静かに歩み寄って、まず備えを褒めました。そのうえで秀吉の意向として、配置の修正を伝えたと伝わります。指示を自分の名ではなく、上位者の意向として運ぶ工夫が見えます。相手の面子を立てながら、必要な修正を通す交渉の型です。現代でも、他部署や年長者に改善を求めるとき、まず認めてから、全体の目的に結びつけて伝えると、受け入れられやすくなります。
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この章句が説くこと

備え面子交渉秀吉の意向低い姿勢竹中重治

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