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名将言行録 / 『名将言行録』上杉景勝 陣を張るか、一戦か

○此役景勝、杉原を陣拂して新發田に向ふ。治長之を聞き、三千餘人を率ゐ、城より十四五町打て出で、敵遲しと待掛けたり。其由追々注進ありければ、景勝佐口傳兵衞、荻田主馬助兩使を以て、先手小倉將監方へ申遣はしけるは、治長出張の由注進あり、一と先づ爰に陣を取り、敵の樣子を見合はすべきや、又敵兵と一戰を遂げ、速に追込むべきや、追入るに於ては、其方が相備の面々は昨日杉原にて藤田信吉が手に屬し、苦戰して疲勞せしなれば、右の一の先を島津月下齋勝久に渡し、安田上總介順易、右の手先へ繰出させ、汝は島津二の身へ備ふべきや、急度返事すべしとなり。

新字:○此役景勝、杉原を陣払して新発田に向ふ。治長之を聞き、三千余人を率ゐ、城より十四五町打て出で、敵遅しと待掛けたり。其由追々注進ありければ、景勝佐口伝兵衛、荻田主馬助両使を以て、先手小倉将監方へ申遣はしけるは、治長出張の由注進あり、一と先づ爰に陣を取り、敵の様子を見合はすべきや、又敵兵と一戦を遂げ、速に追込むべきや、追入るに於ては、其方が相備の面々は昨日杉原にて藤田信吉が手に属し、苦戦して疲労せしなれば、右の一の先を島津月下斎勝久に渡し、安田上総介順易、右の手先へ繰出させ、汝は島津二の身へ備ふべきや、急度返事すべしとなり。

書き下し

○此役景勝、杉原を陣拂して新發田に向ふ。治長之を聞き、三千餘人を率ゐ、城より十四五町打て出で、敵遲しと待掛けたり。其由追々注進ありければ、景勝佐口傳兵衞、荻田主馬助兩使を以て、先手小倉將監方へ申遣はしけるは、治長出張の由注進あり、一と先づ爰に陣を取り、敵の樣子を見合はすべきや、又敵兵と一戰を遂げ、速に追込むべきや、追入るに於ては、其方が相備の面々は昨日杉原にて藤田信吉が手に屬し、苦戰して疲勞せしなれば、右の一の先を島津月下齋勝久に渡し、安田上總介順易、右の手先へ繰出させ、汝は島津二の身へ備ふべきや、急度返事すべしとなり。

現代語訳

○この戦いで景勝は、杉原を陣払いして新発田に向かった。治長はこれを聞き、三千余人を率い、城から十四、五町打って出て、敵が遅いと待ち構えた。その由が追々注進されたので、景勝は佐口伝兵衛と荻田主馬助の両使をもって、先手の小倉将監のもとへ申し遣わした。治長が出張したとの注進がある。いったんここに陣を取り、敵の様子を見合わせるべきか、あるいは敵兵と一戦を遂げて、速やかに追い込むべきか。追い入れるにおいては、お前の相備えの面々は昨日杉原で藤田信吉の手に属して苦戦し、疲労しているので、右の一の先を島津月下斎勝久に渡し、安田上総介順易を、右の手先へ繰り出させ、お前は島津の二の身へ備えるべきか。必ず返事をせよ、とのことであった。

解説

戦場で景勝が、先手の将に二つの選択肢を示して意見を求める場面です。いったん陣を張って様子を見るか、一戦して追い込むか。さらに、疲れた隊の配置替えも合わせて問います。大将が結論を先に押し付けず、現場の指揮官に判断の材料と選択肢を渡して返答を求める形です。この続きで、小倉が述べる考えが問題の核心になります。現代の管理職にとっても、決める前に現場の見立てを聞く、選択肢を明示して判断を求める、という進め方の手本として読めます。一方で、実はこの問いかけには意図があった、と後の逸話で明かされます。
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この章句が説くこと

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