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名将言行録 / 『名将言行録』武田信繁 評・愛された次男の例外

父母から長男以上に愛された次男と云ふものは、大抵身を誤つものである。家光の弟の國松などさうである。 織田信長の弟なども、さうである。それだのに、武田信繁だけは、兄に對し誠意恭順、相當猜疑心もありさうに思はれる信玄から、信任されてゐる。室鳩巣が「駿台雜話」で、一項を設けて、信繁を賞めてゐるのも當然である。武田の戰陣訓九十九ヶ條は、信繁の書いたもののらしいが、每項ちやんとした史書から(孫子に曰く)と云つた風に、引例してある。典厩信繁は、相當學問があつたらしい。 原、馬場、山縣いづれも、甲陽二十四將の中の名將である。この頃、かうした人々の名前が忘れかけてゐるので、加へて置く。原虎胤の(首をくれる話)は、面白い話である。先年、僕は讀物として書いたことがある。

新字:父母から長男以上に愛された次男と云ふものは、大抵身を誤つものである。家光の弟の国松などさうである。 織田信長の弟なども、さうである。それだのに、武田信繁だけは、兄に対し誠意恭順、相当猜疑心もありさうに思はれる信玄から、信任されてゐる。室鳩巣が「駿台雑話」で、一項を設けて、信繁を賞めてゐるのも当然である。武田の戦陣訓九十九ヶ条は、信繁の書いたもののらしいが、毎項ちやんとした史書から(孫子に曰く)と云つた風に、引例してある。典厩信繁は、相当学問があつたらしい。 原、馬場、山県いづれも、甲陽二十四将の中の名将である。この頃、かうした人々の名前が忘れかけてゐるので、加へて置く。原虎胤の(首をくれる話)は、面白い話である。先年、僕は読物として書いたことがある。

書き下し

父母から長男以上に愛された次男と云ふものは、大抵身を誤つものである。家光の弟の國松などさうである。 織田信長の弟なども、さうである。それだのに、武田信繁だけは、兄に對し誠意恭順、相當猜疑心もありさうに思はれる信玄から、信任されてゐる。室鳩巣が「駿台雜話」で、一項を設けて、信繁を賞めてゐるのも當然である。武田の戰陣訓九十九ヶ條は、信繁の書いたもののらしいが、每項ちやんとした史書から(孫子に曰く)と云つた風に、引例してある。典厩信繁は、相當學問があつたらしい。 原、馬場、山縣いづれも、甲陽二十四將の中の名將である。この頃、かうした人々の名前が忘れかけてゐるので、加へて置く。原虎胤の(首をくれる話)は、面白い話である。先年、僕は讀物として書いたことがある。

現代語訳

父母から長男以上に愛された次男というものは、大抵、身を誤るものである。家光の弟の国松などがそうである。 織田信長の弟なども、そうである。それなのに、武田信繁だけは、兄に対して誠意恭順で、相当猜疑心もありそうに思われる信玄から、信任されている。室鳩巣が『駿台雑話』で、一項を設けて、信繁を賞めているのも当然である。武田の戦陣訓九十九か条は、信繁の書いたものらしいが、毎項ちゃんとした史書から(孫子に曰く)といった風に、引例してある。典厩信繁は、相当学問があったらしい。 原、馬場、山県いずれも、甲陽二十四将の中の名将である。この頃、こうした人々の名前が忘れかけているので、加えておく。原虎胤の(首をくれる話)は、面白い話である。先年、僕は読み物として書いたことがある。

解説

菊池寛は評で、親に長男以上に愛された次男は大抵身を誤るが、信繁は例外だと述べます。例として家光の弟の国松や信長の弟を挙げますが、これは当時の通念と菊池個人の見方で、すべての例に当てはまるわけではありません。また室鳩巣が『駿台雑話』で信繁を賞めていることを引き、信繁の戦陣訓が史書の引用を伴い、学問のある人柄がうかがえると述べます。嫌疑を受けやすい立場でも誠意で信頼を得た人物として、現代のナンバーツーのモデルとして読めます。
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