古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

名将言行録 / 『名将言行録』小早川隆景 しんがりの一戦

時に隆景各の御口上に相違せり、此程是非此都を持詰らるべしと申されたる人々の、仔細なく此都を引取らるべしと思はるゝは不覺なり、明人大勢にて押寄するを知りて、徒に退く時は逃けたるに當るべし、是非爰は一ト合戰致し退かでは叶はぬ所なり、合戰致されゝば敵に突立られて大勢退き難からん、今朝より各の御氣色をも憚からず推參を申し過したる間、明日の合戰は某致すべく、其間に人數を繰引せられよ、明日の合戰勝利ならば日本の惣勝なり、自然又利を失ふ時は日本の惣負たるべし、隨分一合戰致すべしと言て、戰の日先陣に進み、縱橫奮擊して大に明兵を敗れり。是を都合戰と云ふ。明兵死亡する者數萬人、李如松馬より墜ち、我將に刺殺されんとす。此時隆景の猛氣英姿は唯摩利支天の如くなりとて、三軍感歎せり。

新字:時に隆景各の御口上に相違せり、此程是非此都を持詰らるべしと申されたる人々の、仔細なく此都を引取らるべしと思はるゝは不覚なり、明人大勢にて押寄するを知りて、徒に退く時は逃けたるに当るべし、是非爰は一ト合戦致し退かでは叶はぬ所なり、合戦致されゝば敵に突立られて大勢退き難からん、今朝より各の御気色をも憚からず推参を申し過したる間、明日の合戦は某致すべく、其間に人数を繰引せられよ、明日の合戦勝利ならば日本の惣勝なり、自然又利を失ふ時は日本の惣負たるべし、随分一合戦致すべしと言て、戦の日先陣に進み、縦横奮撃して大に明兵を敗れり。是を都合戦と云ふ。明兵死亡する者数万人、李如松馬より墜ち、我将に刺殺されんとす。此時隆景の猛気英姿は唯摩利支天の如くなりとて、三軍感嘆せり。

書き下し

時に隆景各の御口上に相違せり、此程是非此都を持詰らるべしと申されたる人々の、仔細なく此都を引取らるべしと思はるゝは不覺なり、明人大勢にて押寄するを知りて、徒に退く時は逃けたるに當るべし、是非爰は一ト合戰致し退かでは叶はぬ所なり、合戰致されゝば敵に突立られて大勢退き難からん、今朝より各の御氣色をも憚からず推參を申し過したる間、明日の合戰は某致すべく、其間に人數を繰引せられよ、明日の合戰勝利ならば日本の惣勝なり、自然又利を失ふ時は日本の惣負たるべし、隨分一合戰致すべしと言て、戰の日先陣に進み、縱橫奮擊して大に明兵を敗れり。是を都合戰と云ふ。明兵死亡する者數萬人、李如松馬より墜ち、我將に刺殺されんとす。此時隆景の猛氣英姿は唯摩利支天の如くなりとて、三軍感歎せり。

現代語訳

そのとき隆景は申しました。皆さんのお言葉と食い違います。このところ、是非この都を保ち通すべきだと言われた方々が、何の仔細もなくこの都を引き取ろうと思われるのは、不覚です。明人が大勢で押し寄せるのを知って、ただ退くときは、逃げたことに当たります。ぜひここは一合戦して退かなくてはなりません。合戦をすれば敵に追われて大勢の退却は困難になるでしょう。今朝から皆さんのご様子にも遠慮せず、出過ぎたことを申し上げたので、明日の合戦は私が引き受けます。その間に人数を繰り引きなさってください。明日の合戦に勝てば日本の総勝ちです。もし利を失えば日本の総負けです。ぜひ一合戦いたしましょうと言って、戦の日、先陣に進み、縦横に奮い撃って、大いに明兵を破りました。これを都合戦(碧蹄館の戦い)といいます。明兵の死者は数万人、李如松は馬から落ち、あやうく味方の将に刺し殺されそうになりました。このとき隆景の猛気と英姿は、まるで摩利支天のようだといって、三軍が感嘆しました。

解説

撤退を決めた直後、隆景は、ただ退くのは逃げたことになるとして、まず一戦してから退くべきだと言い直します。勝てば全体の勝ち、負ければ全体の負けと覚悟を示し、自ら先陣に立ったと伝わります。ここでの要点は、撤退そのものでなく、撤退の質を保つために先に戦力を示すという考え方です。事業の撤退や縮小でも、評判と交渉力を保って退くには、最後に力を見せる局面が必要になることがあります。なお、戦果の数字や形容は岡谷が集めた逸話の語りで、そのまま史実とは言えません。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。

本の中身を見る

この章句が説くこと

小早川隆景撤退一戦先陣覚悟都合戦

関連する章句

本2冊(人生の方程式・人生の教科書)+師導1か月=700円本を見る