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名将言行録 / 『名将言行録』毛利元就 力自慢の気を削ぐ

○尼子和睦の使として、大杉拔右衞門と云ふ者を元就の許に遣はしたり。是は嘗て杉の二尺圍りありけるを根曳にしたりとて、經久、大杉拔右衞門と呼びたりし大力の士なり。元就、大杉に對面し、力の程を感稱し、偖庭前の杉大木にはあらざれども拔て見せられ候へ、力量の程を見たしと頻りに望みけれども、大杉固辭して聽かず。元就左候はんには、御邊程の力にてはなけれども、此杉を拔候位の力の者候へば、拔せて御覽に入れ申べしとて、廻神藤十郎元豐と云ふ大力の士を呼出し、庭前の杉を拔き、大杉氏に見參に入れよかしと命じければ、元豐承はり候と言て坐を立ち、一抱程の大杉を容易く拔て、庭中に倒したり。大杉恐怖の體に見えて退出せり。是は元就敵の氣を奪はんとて前日より根を切り置き斯く謀りしことゝぞ。

新字:○尼子和睦の使として、大杉抜右衛門と云ふ者を元就の許に遣はしたり。是は嘗て杉の二尺囲りありけるを根曳にしたりとて、経久、大杉抜右衛門と呼びたりし大力の士なり。元就、大杉に対面し、力の程を感称し、偖庭前の杉大木にはあらざれども抜て見せられ候へ、力量の程を見たしと頻りに望みけれども、大杉固辞して聴かず。元就左候はんには、御辺程の力にてはなけれども、此杉を抜候位の力の者候へば、抜せて御覧に入れ申べしとて、廻神藤十郎元豊と云ふ大力の士を呼出し、庭前の杉を抜き、大杉氏に見参に入れよかしと命じければ、元豊承はり候と言て坐を立ち、一抱程の大杉を容易く抜て、庭中に倒したり。大杉恐怖の体に見えて退出せり。是は元就敵の気を奪はんとて前日より根を切り置き斯く謀りしことゝぞ。

書き下し

○尼子和睦の使として、大杉拔右衞門と云ふ者を元就の許に遣はしたり。是は嘗て杉の二尺圍りありけるを根曳にしたりとて、經久、大杉拔右衞門と呼びたりし大力の士なり。元就、大杉に對面し、力の程を感稱し、偖庭前の杉大木にはあらざれども拔て見せられ候へ、力量の程を見たしと頻りに望みけれども、大杉固辭して聽かず。元就左候はんには、御邊程の力にてはなけれども、此杉を拔候位の力の者候へば、拔せて御覽に入れ申べしとて、廻神藤十郎元豐と云ふ大力の士を呼出し、庭前の杉を拔き、大杉氏に見參に入れよかしと命じければ、元豐承はり候と言て坐を立ち、一抱程の大杉を容易く拔て、庭中に倒したり。大杉恐怖の體に見えて退出せり。是は元就敵の氣を奪はんとて前日より根を切り置き斯く謀りしことゝぞ。

現代語訳

○尼子が和睦の使いとして、大杉抜右衛門という者を元就のもとに遣わしました。この者はかつて二尺回りの杉を根こぎにしたというので、経久が大杉抜右衛門と呼んだ大力の士です。元就は大杉に対面し、その力のほどを褒め、さて庭先の杉は大木ではないが、抜いて見せてください、力量のほどを見たいと頻りに望みましたが、大杉は固辞して聞きませんでした。元就は、それならばあなたほどの力ではないが、この杉を抜くくらいの力の者がおりますので、抜かせてご覧に入れましょうと言って、廻神藤十郎元豊という大力の士を呼び出し、庭前の杉を抜いて、大杉氏にお目にかけよと命じました。元豊は承知いたしましたと言って席を立ち、一抱えほどの大杉を容易く抜いて庭に倒しました。大杉は恐れる様子で退出しました。これは、元就が敵の気勢を奪おうとして、前日から根を切っておき、このように謀ったことだということです。

解説

和睦の使者として来た大力自慢の士に、あらかじめ根を切っておいた杉を抜いて見せ、気勢を削いだとされる逸話です。元就は先に使者の力を持ち上げ、辞退されるとすぐに、自分の家来の力を見せる段取りに移ります。相手の誇りの拠りどころを、仕掛けで上回って見せる策です。現代の交渉に置き換えると、実力の見せ方を事前に準備しておく、という点で読めます。ただし、仕掛けで相手を威圧することは、長期の信頼関係を損ねるおそれもあります。何を見せるか、見せ方が誠実かを意識すると、示威と信頼の両立を考えやすくなります。
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この章句が説くこと

示威事前準備気勢を削ぐ使者廻神元豊交渉術

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