明君家訓 / 第14条
自今以後、父母、妻子、兄弟、其外親族のうち、國法を背き罪科有之候をよく〱承知仕候とも、したしきものとして申出候はゞ、士の法とは存まじく候、且又一門の身に非ず、平生別してはなし申友だちの内にても申出儀、是又同心に不存候、但さやうに國法を背く不忠のものを、しゐて隱置才覺を以て、罪をのがれ候樣にいたし候はゞ、樣子承りとゞけ可申付候、若又叛逆の巧いたし候か、何とぞ國のさはぎにもなり、某が大事にも成程の儀は、國にもかまはず、それがしにもおもひかへ、見のがしをかるゝ儀は不可然候、其段は某が申付候にをよばず、各々可有了簡候、その程の儀にても、子として父を申出候はゞ同心に不存候、君父は義理のをもき事いづれもおとらぬものにて、忠孝は偏闕しがたき事に候、其事の品により時の首尾により、子たるものゝ了簡有べき儀に候、一筋に申がたく候、たとへ父子兄弟たりといふとも、罪人をば申出候樣に相定め候てこそ、某がためにはよろしく候へども、士の風儀は左樣の仕形はあしく候、惣じて某が心底、をの〱のたてらるゝ義理をもまげ候ても、某一人に忠節いたされ候へとは努々不存候、某に背かれ候ても、をの〱の義理さへたがへられず候へば、於某珍重存候、
新字:自今以後、父母、妻子、兄弟、其外親族のうち、国法を背き罪科有之候をよく〱承知仕候とも、したしきものとして申出候はゞ、士の法とは存まじく候、且又一門の身に非ず、平生別してはなし申友だちの内にても申出儀、是又同心に不存候、但さやうに国法を背く不忠のものを、しゐて隠置才覚を以て、罪をのがれ候様にいたし候はゞ、様子承りとゞけ可申付候、若又叛逆の巧いたし候か、何とぞ国のさはぎにもなり、某が大事にも成程の儀は、国にもかまはず、それがしにもおもひかへ、見のがしをかるゝ儀は不可然候、其段は某が申付候にをよばず、各々可有了簡候、その程の儀にても、子として父を申出候はゞ同心に不存候、君父は義理のをもき事いづれもおとらぬものにて、忠孝は偏闕しがたき事に候、其事の品により時の首尾により、子たるものゝ了簡有べき儀に候、一筋に申がたく候、たとへ父子兄弟たりといふとも、罪人をば申出候様に相定め候てこそ、某がためにはよろしく候へども、士の風儀は左様の仕形はあしく候、惣じて某が心底、をの〱のたてらるゝ義理をもまげ候ても、某一人に忠節いたされ候へとは努々不存候、某に背かれ候ても、をの〱の義理さへたがへられず候へば、於某珍重存候、
書き下し
自今以後、父母、妻子、兄弟、其外親族のうち、國法を背き罪科有之候をよく〱承知仕候とも、したしきものとして申出候はゞ、士の法とは存まじく候、且又一門の身に非ず、平生別してはなし申友だちの内にても申出儀、是又同心に不存候、但さやうに國法を背く不忠のものを、しゐて隱置才覺を以て、罪をのがれ候樣にいたし候はゞ、樣子承りとゞけ可申付候、若又叛逆の巧いたし候か、何とぞ國のさはぎにもなり、某が大事にも成程の儀は、國にもかまはず、それがしにもおもひかへ、見のがしをかるゝ儀は不可然候、其段は某が申付候にをよばず、各々可有了簡候、その程の儀にても、子として父を申出候はゞ同心に不存候、君父は義理のをもき事いづれもおとらぬものにて、忠孝は偏闕しがたき事に候、其事の品により時の首尾により、子たるものゝ了簡有べき儀に候、一筋に申がたく候、たとへ父子兄弟たりといふとも、罪人をば申出候樣に相定め候てこそ、某がためにはよろしく候へども、士の風儀は左樣の仕形はあしく候、惣じて某が心底、をの〱のたてらるゝ義理をもまげ候ても、某一人に忠節いたされ候へとは努々不存候、某に背かれ候ても、をの〱の義理さへたがへられず候へば、於某珍重存候、
現代語訳
今後は、父母、妻子、兄弟、そのほか親族のうちに、国法に背いて罪科のある者がいるのをよくよく承知していても、親しい者として申し出ることは、士の法とは思わない。また一門の者ではなく、ふだん特に親しく話す友人のうちでも、申し出ることには私は同意しない。ただし、そのように国法に背く不忠の者を、無理に隠し置き、才覚をもって罪を逃れるようにはからうなら、様子を聞き届けて申し付ける。もし反逆の企てをしたか、あるいは何であれ国の騒ぎになり、私の大事にもなるほどのことは、国のためにも、私のためにも、考えを改めて、見逃しておかれるのは、しかるべきでない。その段は私が申し付けるまでもなく、各々が考えるように。それほどのことであっても、子として父を申し出るなら、私は同意しない。君と父は、義理の重さがどちらも劣らないもので、忠と孝は一方だけを欠くことはできない。その事の品により、その時の成り行きにより、子たる者が考えるべきことで、一筋には言いがたい。たとえ父子兄弟であっても、罪人は申し出るよう定めたほうが、私のためにはよろしいが、士の風儀として、そのようなやり方はよくない。総じて私の心底は、各々の立てている義理を曲げてまで、私ひとりに忠節を尽くせとは、決して思っていない。私に背かれても、各々が義理さえ違えなければ、私はめでたく思う。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『明君家訓』第1条(二)又は生質不肖に候間、加樣に申候てもわが身の惡事をつよく被諫候はゞ、不快の顏色見へ申儀も可有之候間、かさねて懲被申樣にいたしなし可申哉、其段は隨分嗜可申候、萬一其氣味見へ候共、一旦の儀にて、始終の心底は弓箭を以て唯今申通に候、惣じて某心底内外の儀に付、をのれが惡事を、人にかくし申儀無之候間、見及聞及被申所、何事によらず、機嫌をはからはず諫言をたのみ申候、たとひ、其事不愜候共、虚實は搆ひなく候、たとへば、遊興をこのみ候が、少にても自由の振舞候か、女色に耽候か、奧方に驕ありてか、おのれが威勢をつのり候か、才智にほこり候か、諫言を不用候か、賞罰不正候か、賢臣を遠け、佞臣を近け候か、文道に疎く候か、武備をわすれ候か、家臣百姓にいたるまで憐愍これなく候か、無用の器物を翫び候て金銀を費し候か、作事をこのみ候て人力をやぶり候か、加樣の儀自分に存寄分に候、此外にもおもひよられ候事有之候はゞ、對顏の節直になりとも、又は書付にて成共可被指越候、秘申度事に候はゞ封候て尤に候、取次の者少も延引候はゞ可爲不屆候、勿論一覽にも不及其儘可達之候、
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『明君家訓』第19条家中の士勝手つゞき申やうに、諸事分限相應にいたし、所納の分量をつもり候て、金銀のつかひやうを加減いたし尤にて候、若又親族等に貧窮成ものの候か、又は他人にても存寄の者の内に、迷惑いたすもの候て難見捨候故、さやうの儀にて自分の勝手あしく成候は、結句奇特に存候、左樣のところ不届にて、勝手よく候ても、士の本意にて無之候、右のをもむきにて勝手不調候はゞ、樣子うけたまはりとゞけ、いく度も續樣にいたすべく候、其外不慮の不仕合にて勝手損申は、これまた各別にて候、其時に當て相談いたすべく候、此心得は頭分の者よく〱承知仕、自然右兩樣にて勝手めいわくいたし候もの有之候はゞ、早速申きかすべく候、延引仕候はゞ可爲不届候、
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『明君家訓』第3条各々父母には孝順をつくし、兄弟には友愛を專とし、親族は遠類たりといふとも、筋目をちがへず念頃に申通じ、傍輩にはたがひに、信を本として心底に僞を不挾、家來には憐愍を可被加候、是等は肝要の儀に候間、常々こゝろがけ尤候、右申通學問いたされ候へば、聖賢の書は皆是等の免議にて候、某が口舌をつゐやし候に不及事にて候、
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『明君家訓』第4条家中の士常々不懈節義を嗜可申候、一言一行も士の道にをゐて、不免議成事有べからず候、節義の嗜と申は、口に僞をいはず、身に私をかまへず、心すなをにして外にかざりなく、作法不亂、禮義正しく、上に不諂、下を不慢、をのれが約諾をたがへず、人の患難を見捨ず、かひ〱しくたのもしく、假初にも下ざまの賤しき物がたり、惡口など言葉の端にも不出、さて、耻を知て首を刎らるとも、おのれがすまじき事はせず、死すべき塲をば一足も不引、常に義理をおもんじて、其心鐵石のごとく成物からしも、又温和慈愛にして、物のあはれをしり、人に情有を、節義の士とは申候、平生心がけなく、うか〱と日を送り候はゞ、誠以古人のいはゆる醉生夢死に候はずや、
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『明君家訓』第5条士は右申通、節義をたしなみ、人がら貞信にさへ候得者、世話のごとく立居振舞不調法にして、物言あしく候ても、士の瑕にて無之候、少しもくるしからざる儀に候、當代士多くは貞心に無之、憖に指當さかしく、世話賢く、立居振舞見ぐるしからず候故、をのれが才智に、あくまで自慢いたし、貞信なるものをば、かへつて初心なりと見下し、其有樣輕薄なる輩有之、其内剩老功にて樣子しづかにとりつくろひ、能人がらに化したるも有之、又不功にてうは氣に見ゆるも有之、其品色々かはり候へども、皆同類の人にて候、加樣の人才智有のみならず、血氣にてこそ候へ、似合に勇力もあるゆへに、或は己が役儀、或は傍輩の事につき、少々苦勞なる儀をも、をのれが名利の頼有之内は、身にひきうけて精を出すものにて候、其故たのもしき人がらの樣にも見え候へども、元來佞人にて一筋に義理を守るこゝろなく候故、大事にのぞみては、かならず時々摸樣を見合、眞實の志なきものに候、一命を捨候て、專度の用に立申儀などは存もよらず、某が家臣にもかくのごときの人有之候や、大に政敎の妨に候、周公の才、孟賁が勇候とも、少しも珍重に存ぜず候、又は世に結構人と稱へ申内に、生質柔弱にして才智もなく、禮法も不存、言行につき正しき事をば嫌ひて、酒宴遊興に日を送る輩有之候、是はさながらあしき人がらと顯れ候へば、前の佞人よりは憎からず候へども、某が政敎を破り申所は同事に候、此兩樣の人行に似候はぬ樣可被相嗜候、
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『明君家訓』第13条(一)父母、兄弟、親族等、死去の節、喪服の月數、聖人の御代には、父母には三年、其外兄弟親族にもそれ〱に成法有之候、某が家臣たるものは、一統に聖人の法の如く、喪服相勤申樣にいたし度候へども、これまた急に執行がたく候、時節を相待可申出候、其内志有之、三年の喪、其外の喪も、古法のごとく相勤度とねがひ申者有之候はゞ珍重可存候、其外は父母に五十日、兄弟親族にも、俗令に定置候通り可相勤候、若不行儀なる體承候はゞ、品により急度可申付候、古は喪といへばかならず聲をあげてなきかなしび、引こもり居申内は酒をのまず、女色にちかづかず、なげきの心までにして物ごとをんびんにいたし候、就中父母の喪は、一代の大事これに過ぬかなしひに候、其故は、父母は骨肉をわけしたしみ有之、わがみのいてきし本にて候へば、常々わが身よりも大切成儀に候、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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