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明訓一班抄抄録 / 仁心を本とすべき事・家康が三人の重臣に竹千代を託す

東照宮雅樂頭大炊頭伯耆守三人を召寄せられ、汝等三人へ竹千代を賴み可申と、秀忠被申たるが、いまだ不被申渡也、秀忠同前に我も賴むぞとの上意なりければ、右三人衆謹ていまだ何たる仰渡されも無御座候と申上らるゝ時、上意に、昨日の事なれば、定而日柄を撰び申さるゝにて有べきと、秀忠の內意は、雅樂頭を後見に備え可申と申ぞ、仁を以て育て、大炊は智を以て諫よ、伯耆は勇を守立よ、汝等三人善和同して諫言せよ、汝等竹千代と我風儀とひとしく守立べきとおもふべからず、かねていふ如く、慈悲を萬の根元と申て、風儀はすきぶすきがあるぞ、此意を譬て言に、我は寅の歲にて金性なり、秀忠は卯の歲にて土性なり、竹千代は辰の歲にて火性なり、人の生れ付も大方此心ぞ我性なるとて、秀忠を金にせんと思ふてもならざる事ぞ、此心にて人の風儀は俄に直り難き物と、其生れ付に隨て善政を行にせよ、第一の肝要は武道の怠らざる事ぞ、されば人の身命は生死をはかるに脈を取て、手首一寸の內にて知る如く、武家にて武道怠るは自命の死脈としれと被仰ける、云々、同上意に、兎角常々側にて召仕候傅の者、第一孝行と天命と下へ慈悲を掛、武家の事幼年より申聞候得ば、自然と身持よく成るものに候、君臣と申事は定る事に候得共、

新字:東照宮雅楽頭大炊頭伯耆守三人を召寄せられ、汝等三人へ竹千代を頼み可申と、秀忠被申たるが、いまだ不被申渡也、秀忠同前に我も頼むぞとの上意なりければ、右三人衆謹ていまだ何たる仰渡されも無御座候と申上らるゝ時、上意に、昨日の事なれば、定而日柄を撰び申さるゝにて有べきと、秀忠の内意は、雅楽頭を後見に備え可申と申ぞ、仁を以て育て、大炊は智を以て諫よ、伯耆は勇を守立よ、汝等三人善和同して諫言せよ、汝等竹千代と我風儀とひとしく守立べきとおもふべからず、かねていふ如く、慈悲を万の根元と申て、風儀はすきぶすきがあるぞ、此意を譬て言に、我は寅の歳にて金性なり、秀忠は卯の歳にて土性なり、竹千代は辰の歳にて火性なり、人の生れ付も大方此心ぞ我性なるとて、秀忠を金にせんと思ふてもならざる事ぞ、此心にて人の風儀は俄に直り難き物と、其生れ付に随て善政を行にせよ、第一の肝要は武道の怠らざる事ぞ、されば人の身命は生死をはかるに脈を取て、手首一寸の内にて知る如く、武家にて武道怠るは自命の死脈としれと被仰ける、云々、同上意に、兎角常々側にて召仕候傅の者、第一孝行と天命と下へ慈悲を掛、武家の事幼年より申聞候得ば、自然と身持よく成るものに候、君臣と申事は定る事に候得共、

書き下し

東照宮雅樂頭大炊頭伯耆守三人を召寄せられ、汝等三人へ竹千代を賴み可申と、秀忠被申たるが、いまだ不被申渡也、秀忠同前に我も賴むぞとの上意なりければ、右三人衆謹ていまだ何たる仰渡されも無御座候と申上らるゝ時、上意に、昨日の事なれば、定而日柄を撰び申さるゝにて有べきと、秀忠の內意は、雅樂頭を後見に備え可申と申ぞ、仁を以て育て、大炊は智を以て諫よ、伯耆は勇を守立よ、汝等三人善和同して諫言せよ、汝等竹千代と我風儀とひとしく守立べきとおもふべからず、かねていふ如く、慈悲を萬の根元と申て、風儀はすきぶすきがあるぞ、此意を譬て言に、我は寅の歲にて金性なり、秀忠は卯の歲にて土性なり、竹千代は辰の歲にて火性なり、人の生れ付も大方此心ぞ我性なるとて、秀忠を金にせんと思ふてもならざる事ぞ、此心にて人の風儀は俄に直り難き物と、其生れ付に隨て善政を行にせよ、第一の肝要は武道の怠らざる事ぞ、されば人の身命は生死をはかるに脈を取て、手首一寸の內にて知る如く、武家にて武道怠るは自命の死脈としれと被仰ける、云々、同上意に、兎角常々側にて召仕候傅の者、第一孝行と天命と下へ慈悲を掛、武家の事幼年より申聞候得ば、自然と身持よく成るものに候、君臣と申事は定る事に候得共、

現代語訳

東照宮(徳川家康)が、雅楽頭(酒井忠世)・大炊頭(土井利勝)・伯耆守(青山忠俊)の三人を召し寄せ、「お前たち三人に竹千代(のちの家光)を頼むと、秀忠が申すはずだが、まだ申し渡されていない。秀忠と同じく、私もお前たちに頼むぞ」と仰せになりました。三人は謹んで「まだ何のお言いつけもございません」と申し上げました。すると上意に、「昨日のことなので、きっと日柄を選んで申されるのだろう。秀忠の内意は、雅楽頭を後見に備えよということだ。仁をもって育て、大炊は智をもって諫め、伯耆は勇を守り立てよ。お前たち三人は善く和同して諫言せよ。お前たちは、竹千代と私の風儀が等しくなるように守り立てようと思ってはならない。かねて言うとおり、慈悲を万事の根元と申して、風儀には好き不好きがある。この意をたとえて言えば、私は寅年で金性、秀忠は卯年で土性、竹千代は辰年で火性だ。人の生まれつきもおおかたこのようなものだ。我が性だからといって、秀忠を金にしようと思ってもできないことだ。この心で、人の風儀はにわかには直しがたいものと心得て、その生まれつきに従って善政を行わせよ。第一の肝要は武道を怠らないことだ。人の命の生死を、脈を取って手首一寸の内で知るように、武家が武道を怠るのは、自分の命の死脈と知れ」と仰せられた、云々。同じ上意に、「とかく常々側で召し使う傅の者は、第一に孝行と天命、下へ慈悲をかけ、武家のことを幼年から申し聞かせれば、自然と身持ちがよくなるものです。君臣ということは定まったことですが、

解説

家康は後継ぎを三人の重臣に託し、仁・智・勇と役割を分けています。注目すべきは、自分や秀忠と同じ型に育てようとするな、生まれつきに従えという点です。人の気質はにわかに直らないという認識です。現代の管理職も、部下を自分の流儀に染めようとせず、その人の資質を見極めて伸ばす必要があります。また後進の育成を一人に任せず、複数の視点で支える体制を作ることも、組織の継続には欠かせません。

この章句が説くこと

明訓一班抄徳川斉昭家康秀忠竹千代仁心

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