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甲陽軍鑑 / 品第十四

長坂長閑·跡部大炊助殿先づ世間に土は重寳なる物にて、田地家をも土の上に作くり、人を助ける物なれど、自然岸ぎわなどに風を防ぐとて、家持ちたる者あるに霖にてじや崩れして、重寳なる土が必ず人を殺すは過ぎてあしき事なり、水は人間の食物をしたゝめ汚れをゝめ、東坡も人間第一の水とほめ、萬に重寳なれども大水の時は迷惑いたす、是れ又過ぎてあしき物なり、扨て火と云ふ物は是れも人を助くる重寳なれども、過れば燒亡と申して迷惑なり、又風は萬物をみのらせ、船をやり、誠に温天の時分にも風程嬉しき物はなけれども、吹きすぐれば大風とて或は物を損じ、人の損することおほし、此地·水·火·風をもつて天地有情非情生をなす、雖然すくれば失をなすなり、

新字:長坂長閑·跡部大炊助殿先づ世間に土は重宝なる物にて、田地家をも土の上に作くり、人を助ける物なれど、自然岸ぎわなどに風を防ぐとて、家持ちたる者あるに霖にてじや崩れして、重宝なる土が必ず人を殺すは過ぎてあしき事なり、水は人間の食物をしたゝめ汚れをゝめ、東坡も人間第一の水とほめ、万に重宝なれども大水の時は迷惑いたす、是れ又過ぎてあしき物なり、扨て火と云ふ物は是れも人を助くる重宝なれども、過れば焼亡と申して迷惑なり、又風は万物をみのらせ、船をやり、誠に温天の時分にも風程嬉しき物はなけれども、吹きすぐれば大風とて或は物を損じ、人の損することおほし、此地·水·火·風をもつて天地有情非情生をなす、雖然すくれば失をなすなり、

書き下し

長坂長閑·跡部大炊助殿先づ世間に土は重寳なる物にて、田地家をも土の上に作くり、人を助ける物なれど、自然岸ぎわなどに風を防ぐとて、家持ちたる者あるに霖にてじや崩れして、重寳なる土が必ず人を殺すは過ぎてあしき事なり、水は人間の食物をしたゝめ汚れをゝめ、東坡も人間第一の水とほめ、万に重寳なれども大水の時は迷惑いたす、是れ又過ぎてあしき物なり、扨て火と云ふ物は是れも人を助くる重寳なれども、過れば焼亡と申して迷惑なり、又風は万物をみのらせ、船をやり、誠に温天の時分にも風程嬉しき物はなけれども、吹きすぐれば大風とて或は物を損じ、人の損することおほし、此地·水·火·風をもつて天地有情非情生をなす、雖然すくれば失をなすなり、

現代語訳

長坂長閑・跡部大炊助殿。まず世間で土は重宝な物で、田地や家も土の上に作り、人を助ける物であるが、たまたま崖際などに風を防ぐといって家を持っている者があると、長雨で土崩れして、重宝な土が必ず人を殺すのは、過ぎて悪いことである。水は人間の食物をととのえ、汚れを洗い、東坡も人間第一の物は水とほめ、万事に重宝であるが、大水の時は迷惑する。これもまた過ぎて悪い物である。さて火という物もこれも人を助ける重宝であるが、過ぎれば焼亡といって迷惑である。また風は万物を実らせ、船を走らせ、まことに暑い時分にも風ほど嬉しい物はないが、吹き過ぎれば大風といって、あるいは物を損じ、人の損することが多い。この地・水・火・風によって天地の有情・非情は生をなすのであるが、それでも過ぎれば失をなすのである。

解説

高坂は「強過ぎ」を説くのに、地水火風のたとえを持ち出す。どれも人を生かす重宝なものだが、過ぎれば土崩れ、大水、焼亡、大風となって人を損なう。強さも同じで、それ自体は美点でありながら度を越すと害になる。長所を伸ばせと言われる時代にこそ、その長所がどこで過ぎるかを知っておく必要がある。自分の強みの限界点を言葉にしておきたい。強さを誇る前に、それが誰を損なっているかを問い直す習慣を持ちたい。

この章句が説くこと

強み過ぎ中庸大将地水火風たとえ

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