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甲陽軍鑑 / 品第十四

戶石くづれとて此合戰は信玄公大形負け給ふ樣にあれ共、芝居を踏みしづめ給へば村上終に敗北して、信玄の是も勝なり、負合戰に芝居は何としても塲所ふまへられぬ者なり、無案內の人々はよき者あまた討死仕たる程に、信玄公の負けかと申せ共、昔義經公八島の磯の合戰に二千あまりの旗本を、八十三騎に討ちなされ給へど塲を立ちのかされば、敵は敗軍して義經公の勝なり、惣別軍は唐日本にて昔の樣子をもつて批判し給ふべし、乍去此戶石合戰信玄公の御代に一ツの無手際なる合戰なり、

新字:戸石くづれとて此合戦は信玄公大形負け給ふ様にあれ共、芝居を踏みしづめ給へば村上終に敗北して、信玄の是も勝なり、負合戦に芝居は何としても塲所ふまへられぬ者なり、無案内の人々はよき者あまた討死仕たる程に、信玄公の負けかと申せ共、昔義経公八島の磯の合戦に二千あまりの旗本を、八十三騎に討ちなされ給へど塲を立ちのかされば、敵は敗軍して義経公の勝なり、惣別軍は唐日本にて昔の様子をもつて批判し給ふべし、乍去此戸石合戦信玄公の御代に一ツの無手際なる合戦なり、

書き下し

戸石くづれとて此合戦は信玄公大形負け給ふ様にあれ共、芝居を踏みしづめ給へば村上終に敗北して、信玄の是も勝なり、負合戦に芝居は何としても塲所ふまへられぬ者なり、無案内の人々はよき者あまた討死仕たる程に、信玄公の負けかと申せ共、昔義経公八島の磯の合戦に二千あまりの旗本を、八十三騎に討ちなされ給へど塲を立ちのかされば、敵は敗軍して義経公の勝なり、惣別軍は唐日本にて昔の様子をもつて批判し給ふべし、乍去此戸石合戦信玄公の御代に一ツの無手際なる合戦なり、

現代語訳

戸石崩れといって、この合戦は信玄公がおおかた負けられたようであるが、芝居(戦場)を踏み鎮められたので、村上はついに敗北して、信玄のこれも勝ちである。負け戦では、芝居はどうしても踏まえられないものである。事情を知らない人々は、よい者が大勢討死したのだから信玄公の負けかと言うけれども、昔、義経公が八島の磯の合戦で二千余りの旗本を八十三騎に討ちなされても場を立ち退かれなかったので、敵は敗軍して義経公の勝ちとなった。総じて軍は、唐・日本の昔の様子をもって批判なさるべきである。とはいえ、この戸石合戦は信玄公の御代にただ一つの手際の悪い合戦であった。

解説

損害の大きさだけで勝ち負けを決めるな、と高坂は言う。戦場に踏みとどまり相手を退かせたなら、それは勝ちだという物差しである。義経の八島の例を引き、昔の型に照らして批判せよとも説く。それでも戸石は信玄唯一の手際の悪い戦だと認めている。身内の戦を弁護しながら、欠点は欠点として書き残す。その公平さが、この評を信用に足るものにしている。勝ち負けの物差しを先に持っておくことが、冷静な振り返りを可能にする。

この章句が説くこと

勝敗判断評価踏みとどまる戸石義経

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