言志四録 / 言志晩録 第百十九条 勝ちて驕らず衄して挫けず
戰伐之道。勝於始者。將卒必驕。驕者怠。怠者或衄乎終。衄於始者。將卒必憤。憤者厲。厲者遂勝乎終。故爲主將者。不必論一時之勝敗。只能振厲士氣。鼓舞義勇。使之勝而不驕。衄而不挫。是爲要而已。
新字:戦伐之道。勝於始者。将卒必驕。驕者怠。怠者或衄乎終。衄於始者。将卒必憤。憤者厲。厲者遂勝乎終。故為主将者。不必論一時之勝敗。只能振厲士気。鼓舞義勇。使之勝而不驕。衄而不挫。是為要而已。
書き下し
戦伐の道は、始めに勝つ者は、将卒必ず驕る。驕る者は怠る。怠る者は或は終りに衄く。始めに衄く者は、将卒必ず憤る。憤る者は厲む。厲む者は遂に終りに勝つ。故に主将たる者は、必ずしも一時の勝敗を論ぜず、只能く士気を振厲し、義勇を鼓舞し、之をして勝ちて驕らず、衄きて挫けざらしむ。是れを要と為すのみ。
現代語訳
戦の道では、初めに勝った側は、将兵が必ずおごる。おごる者は怠る。怠る者は、あるいは最後に敗れる。初めに敗れた側は、将兵が必ず発憤する。発憤する者は奮い励む。励む者はついに最後に勝つ。だから総大将たる者は、一時の勝ち負けを論じる必要はなく、ただ士気を奮い立たせ、義の心と勇気を鼓舞して、勝ってもおごらず、敗れてもくじけないようにさせる。これこそが肝要なのである。
解説
初戦の勝敗が最終的な勝敗を逆転させることがあるという、人の心の連鎖を描いた条です。勝てば驕り、驕れば怠り、怠れば最後に敗れる。負ければ憤り、憤れば励み、励めば最後に勝つ。だから将たる者は一時の勝敗に一喜一憂せず、勝っても驕らず負けても挫けない心を兵に保たせることが要だと言います。「衄」は鼻血の意から転じて、挫かれ敗れることです。一斎は勝敗そのものより、それを受けとめる心の動きを見ています。先の条の、士気の振起は将の率先にあるという言葉とも重なります。好調な時期の緩みと、不調な時期の奮起。チームの浮き沈みをどう導くか考える材料になる一条です。
この章句が説くこと
勝敗驕り士気逆境統率
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