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甲陽軍鑑 / 品第十三

又北條家へ武略に行く兩人、其內井又左近太夫酉の三月毒害にて死する、則政公仰せには我下の大身ども、北條家へ心もよせぬ者どもを僞を申かけたる罰にて、頓死仕たりと仰出され候間、諸人悉く井又左近をにくまぬ者はさのみなし、扨上杉家の能き家老一兩人寄合管領家是ほどには木に成たりさて、忍て井又左近太夫が跡を吊てなけども更にかひそなき、然ば北條家氏康廿三歲にては扇谷の城河越〓をのつとる、そこにて行あたり、右にいやしみたる事は兩年の間に忘すれ、

新字:又北条家へ武略に行く両人、其内井又左近太夫酉の三月毒害にて死する、則政公仰せには我下の大身ども、北条家へ心もよせぬ者どもを偽を申かけたる罰にて、頓死仕たりと仰出され候間、諸人悉く井又左近をにくまぬ者はさのみなし、扨上杉家の能き家老一両人寄合管領家是ほどには木に成たりさて、忍て井又左近太夫が跡を吊てなけども更にかひそなき、然ば北条家氏康廿三歳にては扇谷の城河越〓をのつとる、そこにて行あたり、右にいやしみたる事は両年の間に忘すれ、

書き下し

又北条家へ武略に行く両人、其内井又左近太夫酉の三月毒害にて死する、則政公仰せには我下の大身ども、北条家へ心もよせぬ者どもを偽を申かけたる罰にて、頓死仕たりと仰出され候間、諸人悉く井又左近をにくまぬ者はさのみなし、扨上杉家の能き家老一両人寄合管領家是ほどには木に成たりさて、忍て井又左近太夫が跡を吊てなけども更にかひそなき、然ば北条家氏康廿三歳にては扇谷の城河越〓をのつとる、そこにて行あたり、右にいやしみたる事は両年の間に忘すれ、

現代語訳

また北条家へ武略に行った両人のうち、井又左近太夫は酉の年の三月に毒害で死ぬ。則政公の仰せには、我が下の大身どもで北条家へ心も寄せない者どもに偽りを言いかけた罰で頓死したと仰せ出されたので、諸人ことごとく井又左近を憎まない者はさほどいない。さて上杉家のよい家老の一両人が寄り合い、管領家がこれほどまでになったかと、忍んで井又左近太夫の跡を弔って泣いたけれども、さらに甲斐はない。そして北条家では氏康が二十三歳で扇谷の城河越を乗っ取る。そこで行き当たって、右にいやしんだことは両年の間に忘れ、

解説

命がけで北条を探った井又が毒害で死ぬと、則政はそれを讒言の罰だと言い放ち、家中も井又を憎んだ。心ある家老だけが、管領家もここまで落ちたかと忍んで弔う。そしてまさにその時、北条氏康は河越城を乗っ取り、侮っていた相手の実力が明らかになる。功ある者の死を貶める組織は、いずれ現実に報いを受ける。失った人の働きを正しく記憶したい。賞罰の誤りは、死者の名誉まで奪うのである。

この章句が説くこと

讒言忠節人材大将北条報い

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