導師導古典を学びたいすべての人に

甲陽軍鑑 / 品第十二

殘て五人斗り男を立てる人あれ共、其者をば各々惡しういひ頭も上げさせずしてをしかすむ、かすめらるまじきとて一と言いへば、前に口たけ驕りたるに違い挨拶はめてくちにて、かげへまはり狂氣人に申し立て候へば、能き人物もいひ得ず、そこにては能き五人の內も三人は、分別を仕かへ、命を抛ち武邊をかせぐも所領を取り立身せんと云ふことなれば、時に至りて仕合せよき人の機にあはんなり、いかに元來町人にてち家の老案出頭衆彼の者共を能ゝ思ひ給へは、我心さへ違はすは付き合ひ取りなしをいはれ、德にせんとて件の町人方へ能き人も出入する、

新字:残て五人斗り男を立てる人あれ共、其者をば各々悪しういひ頭も上げさせずしてをしかすむ、かすめらるまじきとて一と言いへば、前に口たけ驕りたるに違い挨拶はめてくちにて、かげへまはり狂気人に申し立て候へば、能き人物もいひ得ず、そこにては能き五人の内も三人は、分別を仕かへ、命を抛ち武辺をかせぐも所領を取り立身せんと云ふことなれば、時に至りて仕合せよき人の機にあはんなり、いかに元来町人にてち家の老案出頭衆彼の者共を能ゝ思ひ給へは、我心さへ違はすは付き合ひ取りなしをいはれ、徳にせんとて件の町人方へ能き人も出入する、

書き下し

残て五人斗り男を立てる人あれ共、其者をば各々悪しういひ頭も上げさせずしてをしかすむ、かすめらるまじきとて一と言いへば、前に口たけ驕りたるに違い挨拶はめてくちにて、かげへまはり狂気人に申し立て候へば、能き人物もいひ得ず、そこにては能き五人の内も三人は、分別を仕かへ、命を抛ち武辺をかせぐも所領を取り立身せんと云ふことなれば、時に至りて仕合せよき人の機にあはんなり、いかに元来町人にてち家の老案出頭衆彼の者共を能ゝ思ひ給へは、我心さへ違はすは付き合ひ取りなしをいはれ、徳にせんとて件の町人方へ能き人も出入する、

現代語訳

残って五人ばかり男を立てる人がいても、その者を各々悪く言い、頭も上げさせずに押しかすめる。かすめられまいとして一言言えば、前には口達者で驕っていたのに違って、挨拶は控えめな口ぶりになり、陰へ回って「狂気の人だ」と申し立てるので、よい人物も物が言えない。そうなるとよい五人のうちでも三人は分別を仕替え、命を投げうって武辺を稼ぐのも所領を得て立身しようということなので、時に至っては仕合わせのよい人の機嫌に合わせようとする。いかに元は町人であっても、家の年寄・出頭衆がその者どもをよく思っておられるので、自分の心さえ違えなければ付き合って取りなしを言ってもらえ、得にしようと、その町人方へよい人までも出入りするようになる。

解説

悪い家風の中でも骨のある者は五人ほど残るが、周囲は寄ってたかって押さえつけ、反論すれば陰で狂人扱いにする。やがて五人のうち三人は、立身のためには仕方がないと分別を仕替え、自らも町人の家に出入りするようになる。善人が一人ずつ転ぶ過程がこれほど具体的に描かれた箇所は珍しい。よい人材を守るのは本人の気概ではなく、上に立つ者の目と家の仕組みである。

この章句が説くこと

人材家風同調讒言立身正論

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る