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甲陽軍鑑 / 品第十二

古語ニ曰、掬スレハ水ヲ月在手ニ弄スレバ花ヲ香滿衣ニといふ心に、三畧ニ曰、雖窮不處亡國之位、雖貧不食亂邦之祿といふ義理にて、立ち出つれども殘りたる愚人は善惡をしらずして、出てたる跡にて其能き人を散々にあしう申者なり、されども作りこと成るにより愚人の能き人を誹ること五所にては五樣と申す、口のちがうは必ず空言をいふてそねむと思召し候へ、

新字:古語ニ曰、掬スレハ水ヲ月在手ニ弄スレバ花ヲ香満衣ニといふ心に、三略ニ曰、雖窮不処亡国之位、雖貧不食乱邦之禄といふ義理にて、立ち出つれども残りたる愚人は善悪をしらずして、出てたる跡にて其能き人を散々にあしう申者なり、されども作りこと成るにより愚人の能き人を誹ること五所にては五様と申す、口のちがうは必ず空言をいふてそねむと思召し候へ、

書き下し

古語ニ曰、掬スレハ水ヲ月在手ニ弄スレバ花ヲ香満衣ニといふ心に、三略ニ曰、雖窮不処亡国之位、雖貧不食乱邦之禄といふ義理にて、立ち出つれども残りたる愚人は善悪をしらずして、出てたる跡にて其能き人を散々にあしう申者なり、されども作りこと成るにより愚人の能き人を誹ること五所にては五様と申す、口のちがうは必ず空言をいふてそねむと思召し候へ、

現代語訳

古語に「水を掬すれば月手に在り、花を弄すれば香衣に満つ」という心で、三略に「窮すといえども亡国の位に処らず、貧しといえども乱邦の禄を食まず」という義理によって、よい人は立ち出るけれども、残った愚人は善悪を知らずに、出ていった後でその善い人を散々に悪く言うものである。けれども作り事であるから、愚人が善い人を誹ることは、五か所では五様に言う。口が違うのは必ず空言を言って妬んでいるのだとお思いなさい。

解説

水を掬えば月が手に宿り、花に触れれば香が衣に移るように、人は交わる相手に染まる。だから三略の言うとおり、心ある人は乱れた家の禄を食まずに去っていく。残った者は去った人を悪く言うが、作り話なので五か所で五通りに話が食い違う。退職者の悪口が人によって違うなら、それは妬みの証拠だという見分け方は、今の職場でもそのまま使える。去る人の理由にこそ、組織の実相が映る。

この章句が説くこと

退職讒言妬み人材三略義理

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