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甲陽軍鑑 / 品第十三

古語に曰、廢一善則衆善衰、賞一惡則衆惡皈と有るごとく上杉家·すがの·上原、五人の白拍子を愛するにより、すがの·上原ふるまふ者共は先此白拍子をよび、公界は法度なりとて裏座敷にて亂舞あり、左樣に馳走する者は則政公御ため思ふ人なりとて、大方加恩をうくる、それを見きいて平井の諸侍、老若ともにさだちうきそゞろに心得一汁一菜の法度をも破り、右五人の白拍子のこでわき共に、菊夜又·桔梗·花をしまなどゝいふ女どもを、かなたこなたへ引まはる、平井の侍悉く不辨して召遣ふ者共に無足をさすれば、上杉家に盜人はやる、

新字:古語に曰、廃一善則衆善衰、賞一悪則衆悪皈と有るごとく上杉家·すがの·上原、五人の白拍子を愛するにより、すがの·上原ふるまふ者共は先此白拍子をよび、公界は法度なりとて裏座敷にて乱舞あり、左様に馳走する者は則政公御ため思ふ人なりとて、大方加恩をうくる、それを見きいて平井の諸侍、老若ともにさだちうきそゞろに心得一汁一菜の法度をも破り、右五人の白拍子のこでわき共に、菊夜又·桔梗·花をしまなどゝいふ女どもを、かなたこなたへ引まはる、平井の侍悉く不弁して召遣ふ者共に無足をさすれば、上杉家に盗人はやる、

書き下し

古語に曰、廃一善則衆善衰、賞一悪則衆悪皈と有るごとく上杉家·すがの·上原、五人の白拍子を愛するにより、すがの·上原ふるまふ者共は先此白拍子をよび、公界は法度なりとて裏座敷にて乱舞あり、左様に馳走する者は則政公御ため思ふ人なりとて、大方加恩をうくる、それを見きいて平井の諸侍、老若ともにさだちうきそゞろに心得一汁一菜の法度をも破り、右五人の白拍子のこでわき共に、菊夜又·桔梗·花をしまなどゝいふ女どもを、かなたこなたへ引まはる、平井の侍悉く不弁して召遣ふ者共に無足をさすれば、上杉家に盗人はやる、

現代語訳

古語に、一善を廃すれば衆善衰え、一悪を賞すれば衆悪帰す、とあるように、上杉家のすがの・上原が五人の白拍子を愛するので、すがの・上原をもてなす者どもはまずこの白拍子を呼び、公の場は法度だといって裏座敷で乱舞をする。そのように馳走する者は則政公の御ためを思う人だといって、おおかた加増を受ける。それを見聞きして平井の諸侍は老若ともに浮き立ち、うわついて心得、一汁一菜の法度をも破り、右の五人の白拍子の小脇どもに、菊夜叉・桔梗・花押島などという女どもを、あちらこちらへ引き回す。平井の侍はことごとく困窮して、召し使う者どもに無足をさせるので、上杉家に盗人がはやる。

解説

一つの善を捨て、一つの悪を褒めれば、善は衰え悪が集まるという三略の言葉どおりの事態になる。出頭人をもてなした者が加増を受けると、侍たちは皆それを真似て法度を破り、遊興で困窮して家来に給金を払えず、ついには盗人がはやる。評価の一つの誤りが、規律、家計、治安へと連鎖していく。何を褒めるかは、組織全体に何を求めるかの宣言なのである。褒める一つ一つが、組織の方向を決める。

この章句が説くこと

賞罰規律出頭人三略家中連鎖

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