甲陽軍鑑 / 品第十三
二番によくつよき大將の度々軍にかち、賞罰天地のごとく明らかなるは、異相に見へて人の怖るを心のいたらざる大將のまね給へば、短氣に成り給ひ科もなき家老をねめしり、其外の侍衆をば少しの儀に誅し給ふ、明暮機嫌わろく老の異見も聞ず、むざと宮社頭の木などをきり、或はあら馬にすいて落てはあやまちをし、久敷煩ひ親類·家老·各內衆に機遣させ、蛇のすむ池などゝきゝては、かへてみたがり、又人にくゞらせ、我もくゞりて詮なきうでだてなされ候へば、其下の奉公人朝夕いひ事をして、少のことにもはらを立て近付き知音に、はをぬきて勝負もつかぬ喧嘩ずきいたし、せいで叶はぬ武邊などの時は人なみよりは內にして、それを苦にせぬ奉公人多し、
新字:二番によくつよき大将の度々軍にかち、賞罰天地のごとく明らかなるは、異相に見へて人の怖るを心のいたらざる大将のまね給へば、短気に成り給ひ科もなき家老をねめしり、其外の侍衆をば少しの儀に誅し給ふ、明暮機嫌わろく老の異見も聞ず、むざと宮社頭の木などをきり、或はあら馬にすいて落てはあやまちをし、久敷煩ひ親類·家老·各内衆に機遣させ、蛇のすむ池などゝきゝては、かへてみたがり、又人にくゞらせ、我もくゞりて詮なきうでだてなされ候へば、其下の奉公人朝夕いひ事をして、少のことにもはらを立て近付き知音に、はをぬきて勝負もつかぬ喧嘩ずきいたし、せいで叶はぬ武辺などの時は人なみよりは内にして、それを苦にせぬ奉公人多し、
書き下し
二番によくつよき大将の度々軍にかち、賞罰天地のごとく明らかなるは、異相に見へて人の怖るを心のいたらざる大将のまね給へば、短気に成り給ひ科もなき家老をねめしり、其外の侍衆をば少しの儀に誅し給ふ、明暮機嫌わろく老の異見も聞ず、むざと宮社頭の木などをきり、或はあら馬にすいて落てはあやまちをし、久敷煩ひ親類·家老·各内衆に機遣させ、蛇のすむ池などゝきゝては、かへてみたがり、又人にくゞらせ、我もくゞりて詮なきうでだてなされ候へば、其下の奉公人朝夕いひ事をして、少のことにもはらを立て近付き知音に、はをぬきて勝負もつかぬ喧嘩ずきいたし、せいで叶はぬ武辺などの時は人なみよりは内にして、それを苦にせぬ奉公人多し、
現代語訳
第二に、よく強い大将が度々の戦に勝ち、賞罰が天地のように明らかであるのは、異相に見えて人が怖れるものだが、それを心の至らない大将が真似なさると、短気になられ、罪もない家老をにらみつけ、そのほかの侍衆を少しのことで誅される。明け暮れ機嫌が悪く、年寄の異見も聞かず、むやみに宮や社の木などを伐り、あるいは荒馬に好んで乗って落ちては過ちをし、長く患って親類・家老・内衆に気遣いをさせ、蛇の住む池などと聞いては水をかえて見たがり、また人にくぐらせ、自分もくぐって詮ない腕だてをなされるので、その下の奉公人は朝夕言い争いをし、少しのことにも腹を立てて近付きや知音に刃を抜き、勝負もつかぬ喧嘩好きになり、しなければならない武辺の時には人並みより控えて、それを苦にしない奉公人が多い。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『韓非子』難一第三十六今赫は僅かに驕侮せざるのみにして、襄子之を賞するは、是れ賞を失うなり。明主は賞を無功に加えず、罰を無罪に加えず。
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『韓非子』初見秦第一賞を言ひて則ち与へず、罰を言ひて則ち行はず、賞罰信ならず、故に士民死せざるなり。
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孫子・行軍篇數々賞する者は、窘するなり。數々罰する者は、困しむなり。先に暴にして後に其の衆を畏るる者は、不精の至りなり。来たりて委謝する者は、休息を欲するなり。
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『韓非子』外儲説右下第三十五夫れ賞は之を勧むる所以にして、毀存す。罰は之を禁ずる所以にして、誉加はる。民中立して由る所を知らず、
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『韓非子』外儲説右下第三十五一。賞罰共にすれば則ち禁令行はれず。何を以て之を明らかにする。之を明らかにするに造父・於期を以てす。
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呂氏春秋・義賞①春氣至れば則ち草木産し、秋氣至れば則ち草木落つ。産と落とは之を使しむるもの或り。自ら然るに非ざるなり。故に之を使しむる者至れば、物為さざる無く、之を使しむる者至らざれば、物為す可き無し。古の人、其の使しむる所以を審らかにす、故に物、用を為さざる莫し。賞罰の柄、此れ上の使しむる所以なり。其の以て加うる所の者義なれば、則ち忠信親愛の道彰わる。久しく彰われて愈々長ずれば、民の之に安んずること性の若し。此を之れ教成ると謂う。教成れば則ち厚賞嚴威有りと雖も禁ずること能わず。故に善く教うる者は、義以て賞罰して教成り、教成りて賞罰禁ずること能わず。賞罰を用いて當らざるも亦た然り。姦偽賊亂貪戻の道興り、久しく興りて息まざれば、民の之を讎うること性の若し。戎夷胡貉巴越の民は、是を以て厚賞嚴罰有りと雖も、禁ずること能わず。郢人の兩版を以て垣するや、吳起之を變じて惡まる。賞罰易れば民安くんぞ樂しまん。氐羌の民、其れ虜となるや、其の係纍を憂えずして、其の死するに焚かれざるを憂うるは、皆、邪に成り、且つ成りて民を賊う。故に賞罰の加うる所は、慎まざる可からず。
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