甲陽軍鑑 / 品第十二
右申す利根の過たる大將は無行儀にて、第一に色を好む、それに付ても諸人に恨をうけ褒貶せられ給ふ、扨て又大身·中身·小身によらず色を好むとてもくるしからざる女人は、たよるは、ひがことにあらず、子細は侍か立身して身に隨ての樂是れ也、其上子共繁昌のために然るべし、狼藉の色好みをさして無行儀と申候、行儀のあしき大將は義理を不知ラ無慈悲にして、無分別なればかざりて虛言を宣ふ間、自然軍などに勝ても五里·十里跡にゐて能き家老の我より先にて勝ちたるを、我自身手を碎きてし給ふやうに過言を被仰候、其老衆を猜み、後には必ず家老を追出すか、大方は誅せらる、是只利根の過ぎたる大將、作法如此、
新字:右申す利根の過たる大将は無行儀にて、第一に色を好む、それに付ても諸人に恨をうけ褒貶せられ給ふ、扨て又大身·中身·小身によらず色を好むとてもくるしからざる女人は、たよるは、ひがことにあらず、子細は侍か立身して身に随ての楽是れ也、其上子共繁昌のために然るべし、狼藉の色好みをさして無行儀と申候、行儀のあしき大将は義理を不知ラ無慈悲にして、無分別なればかざりて虚言を宣ふ間、自然軍などに勝ても五里·十里跡にゐて能き家老の我より先にて勝ちたるを、我自身手を砕きてし給ふやうに過言を被仰候、其老衆を猜み、後には必ず家老を追出すか、大方は誅せらる、是只利根の過ぎたる大将、作法如此、
書き下し
右申す利根の過たる大将は無行儀にて、第一に色を好む、それに付ても諸人に恨をうけ褒貶せられ給ふ、扨て又大身·中身·小身によらず色を好むとてもくるしからざる女人は、たよるは、ひがことにあらず、子細は侍か立身して身に随ての楽是れ也、其上子共繁昌のために然るべし、狼藉の色好みをさして無行儀と申候、行儀のあしき大将は義理を不知ラ無慈悲にして、無分別なればかざりて虚言を宣ふ間、自然軍などに勝ても五里·十里跡にゐて能き家老の我より先にて勝ちたるを、我自身手を砕きてし給ふやうに過言を被仰候、其老衆を猜み、後には必ず家老を追出すか、大方は誅せらる、是只利根の過ぎたる大将、作法如此、
現代語訳
右に申す利根の過ぎた大将は無行儀で、第一に色を好む。それにつけても諸人に恨みを受け、褒めたり貶したりされる。さてまた大身・中身・小身によらず、色を好むといっても差し支えのない女人を頼りにするのは、ひがごとではない。子細は、侍が立身して身に応じての楽しみがこれである。そのうえ子どもの繁昌のためにももっともである。狼藉の色好みを指して無行儀と申すのである。行儀の悪い大将は義理を知らず無慈悲であって、無分別なので飾って虚言を言われるので、たまたま軍などに勝っても、五里・十里後ろにいて、よい家老が自分より先で勝ったのを、自分自身が手を砕いてなさったように過言をおっしゃる。その老衆を妬み、後には必ず家老を追い出すか、おおかたは誅せられる。これがただ利根の過ぎた大将の作法である。
解説
この章句が説くこと
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『甲陽軍鑑』品第十二利根過ぎたる大将しかもひとかは利根にして、よのつねの人に似ず、心ね大地震にもくつれず候と聞き及びたり、惣別能き大将はあらくみゆれども、慈悲深かし、利根の過ぎたる悪大将、口にてはよき様に被仰にも底意無慈悲なり、必ず利根過ぎれば身に自慢有るにより何をしても我することにひたちうたるまじと思召すに付き、
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『甲陽軍鑑』品第四十一或る時会根内匠高坂弾正に問ふ、よき大将の批判無行義なる事有て、悪しき大将の行義よき事有は是何としたる事ぞ、願くは高坂殿ひはんをし給へと曽根がいへば、高坂いはく、それを縦へば侍の急の用にて家を出る時、刀·脇指をさし、扇·鼻紙をば忘れ罷出る儀有といへ共、刀·脇差は忘れす候、其如くよき大将は不行義にても主の名をうる事、或は徳ある義には少も悪しき事なし、
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『甲陽軍鑑』品第十二此善悪をしらず利根過たる大将は、はなもとに分別有て何ごとも一トかは分別になさるゝを、縦は刀の鋒はかりに刃あり、もとは皆ぢがねにて、縦へきるといへども、鍔ぎはまがり押なをせば彼方此方へ成ことく、きのふの事けふかはる其談合、明日は変じ明暮あたらしう物を仕出さんとかゝり、賢人の語をきゝても貪りたる意地へあてがひて、画はかやかれ、夜は縄なへと百姓に申付け、町人·寺方迄も障子折りて出せ竹釘けづりて上げよなどゝ云ひ給へば、
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